2019 Fiscal Year Annual Research Report
Injury mechanism of blue light against insect cells
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18H03946
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
堀 雅敏 東北大学, 農学研究科, 准教授 (70372307)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
麻生 久 東北大学, 農学研究科, 教授 (50241625)
原田 昌彦 東北大学, 農学研究科, 教授 (70218642)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 青色光 / 殺虫 / 昆虫細胞 / 傷害 / 細胞増殖 / 細胞周期 / 活性酸素 / 細胞死 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究で、短波長側と長波長側青色光では昆虫細胞(ショウジョウバエ胚由来S2細胞)に対する傷害作用が異なる可能性が示された。そこで本年度は、短波長側青色光(405nm)と長波長側青色光(470nm)で強度と増殖抑制効果の関係を比較し、傷害作用の違いがエネルギーの違いによるものか、波長そのものの違いによるものか調査した。その結果、470nmを405nmの2倍の光量子束密度で細胞に照射しても、405nmのほうが増殖を急激に、かつ強く抑制することが示された。このことから、短波長側と長波長側の青色光の傷害作用の違いは波長に依存すると考えられた。そこで、両波長領域の傷害作用の違いを詳細に解明するため、蛍光顕微鏡による形態観察を行った。その結果、470nmではM期で停止したとみられる細胞が、405nmではアポトーシスを起こしたとみられる細胞が多く観察された。フローサイトメトリーを用いて細胞周期の停止がどこで生じているか解析したところ、470nmではG2/M期の細胞の割合が増加したのに対して、405nmではS期とG2/M期の境界が不明瞭になり、かつG0/G1期の細胞の割合が減少したことから、アポトーシスにより核が崩壊した細胞の割合が多くなったと考えられた。形態観察および細胞周期停止でみられた両波長間の特徴の違いは、光強度ではなく波長に依存していたことから、細胞への傷害メカニズムが短波長側と長波長側の青色光で異なっていると考えられた。フローサイトメトリーを用いたTunel法により、アポトーシスを起こした細胞を両波長間で比較したところ、470nmではアポトーシスが進行しておらず、405nmではアポトーシスが進行していることが示唆された。以上から、短波長側青色光は細胞に深刻な傷害を与えアポトーシスを誘導するのに対して、長波長側青色光は細胞分裂を停止させる作用があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昆虫細胞増殖抑制に効果的な波長および有効光強度の解明においては、短波長側青色光と長波長側青色光での傷害作用の違いがエネルギーによるものではなく、波長の違いによるものであることを本年度の研究で明らかにできた。昆虫細胞への青色光照射による細胞周期停止と細胞死誘導シグナルの解析では、短波長側と長波長側の青色光で細胞周期の停止や細胞に与える傷害の大きさに違いがあることを明らかにでき、計画以上に進行した。しかし、短波長側と長波長側の青色光で傷害作用に違いがあることは当初予期していなかった結果であったため、この違いの詳細を明らかにすることがまず重要と考え、研究内容をややそちらにシフトした。このため、本年度実施を予定していた哺乳類細胞に対する影響解析および昆虫細胞における青色光照射の酸化ストレス誘導機構の解析手法の確立は実施できなかった。昆虫細胞における青色光受容体の同定については、分光画像取得装置(ハイパースペクトルカメラ)による吸収スペクトルの比較解析のためのシステムの構築を行った。以上から、進捗が遅れている項目はあるものの、青色光の波長による作用の違いを明らかにするなど、当初推測していなかった重要な発見もできたことから、全体としてはおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究で、青色光でも短波長側と長波長側では昆虫細胞に対する傷害作用が異なることを明らかにした。この成果は、これまでに知られていなかった青色光の生体への作用に関する新たな重要な知見となるため、その詳細を明らかにしていく必要がある。そこでまず、短波長と長波長側それぞれの波長領域について明らかにしていく。また、作用の違いは傷害メカニズムの違いから生じるものと考えられるため、細胞周期や細胞死に与える両波長領域の違いを、フローサイトメトリーによる細胞周期解析および蛍光顕微鏡による細胞形態解析、タイムラプス動画記録による細胞の継時的変化の解析などにより明らかにし、両波長領域の細胞死誘導の分子メカニズムの解明につなげていく。また、当初計画通り、青色光照射の哺乳類細胞に対する影響解析を行い、青色光照射の細胞への傷害作用が動物細胞全般に対するものであるか、昆虫細胞に対する特異的なものであるかを明らかにする。さらに、昆虫細胞における青色光照射の酸化ストレス誘導の解析、青色光と酸化ストレスの相乗効果発現機構の解析、昆虫細胞における青色光受容体の同定も行っていく。昆虫細胞における青色光受容体の同定では、ショウジョウバエ個体を用いて青色光受容組織を明らかにするとともに、細胞における受容体を同定していく。これらの研究により、短波長側青色光と長波長側青色光が、それぞれどのようなメカニズムで細胞に傷害を与えるのか、DNAや細胞に傷害を与える間接的あるいは直接的因子はそれぞれ何かといったことを明らかにしていく。
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