2018 Fiscal Year Annual Research Report
イネ冷害におけるエピジェネティックな制御機構の解明
Project/Area Number |
18H03947
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
東谷 篤志 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (40212162)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
工藤 洋 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (10291569)
下野 裕之 岩手大学, 農学部, 准教授 (70451490)
寺西 美佳 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (10333832)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イネ低温障害 / エピジェネティック制御 / 温度ストレス / 生殖成長 / 穂ばらみ期耐冷性 / 水温 |
Outline of Annual Research Achievements |
イネの低温障害(冷害)は、地球規模での温暖化とそれに伴う異常気象の影響により、今尚発生リスクが懸念されるが、その本質的なメカニズム解明には至っていない。本研究では、イネの冷害にみられる大規模な遺伝子発現の制御や温度メモリー効果の実体が、エピジェネティックなゲノム変化に起因するという作業仮設を検証することを目的としている。遺伝子発現のエピジェネティック制御には、ヒストンのアセチル化やメチル化などの翻訳後修飾が関わっている。そこで本年度は、イネ遺伝子発現データベースに含まれる遺伝子の中から、ヒストン修飾に関わる酵素をコードすると考えられる87遺伝子に関して、各種ストレス処理による遺伝子発現量変化を比較解析した。その結果、今後の解析対象として32個の遺伝子を選抜した。それぞれの遺伝子に特異的なプライマーを作製し、全てのプライマーが機能することを確認した。 また、栄養成長期の低水温は穂ばらみ期の耐冷性に影響するというエピジェネティック効果の再現性を確認した。さらに、栄養成長期間の成長点ならびに冷害危険期の幼穂をサンプリングする方法を検討し、確立した。 さらに、イネの葉と幼穂からのクロマチン調整法について詳細を検討し、転写活性化に働くヒストン修飾であるH3K4me3、および転写抑制に働くヒストン修飾であるH3K27me3に特異的な抗体を用いたクロマチン免疫沈降によるデータ取得が可能となった。またデータ解析のパイプラインを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イネ遺伝子発現データベースであるRice Expression Profile Database(RiceXPro)とTranscriptome Encyclopedia of Rice (TENOR)から、ヒストン修飾に関わると考えられる87遺伝子を選抜した。データベースには、ニホンバレ実生に対する各種ストレス処理による遺伝子発現量変化に関する情報が含まれるため、ストレスの中でも4℃低温処理、また低温と乾燥ストレスへの関与が知られる植物ホルモンであるアブシジン酸処理に関するデータを抜き出し、比較解析を行った。その結果、解析対象として32個の遺伝子を選抜し、特異的なプライマーを作製した。ニホンバレcDNAを鋳型としたPCRを行い、全てのプライマーが機能することを確認した。 また、栄養成長期の低水温は穂ばらみ期の耐冷性に影響するというエピジェネティック効果の再現性を確認した。さらに、栄養成長期間の成長点ならびに冷害危険期の幼穂をサンプリングするため、採取時期また方法を岩手県盛岡市の野外自然日長条件にて検討した。その結果、イネ品種「ササニシキ」において、栄養成長期に20℃または27℃の水温処理を行ったところ、栄養成長から生殖成長への転換である幼穂形成が、20℃では移植後55日目、27℃では48日目となった。幼穂サンプリング時期は、穎花長が減数分裂期に相当する3~5mmであることを条件とし、対照条件では幼穂形成後18日目、冷害処理条件(19℃)では24~33日目が有効であることを明らかにした。 さらに、イネの葉と幼穂からのクロマチン調整法について詳細を検討した。その結果、転写活性化に働くヒストン修飾であるH3K4me3、および転写抑制に働くヒストン修飾であるH3K27me3に特異的な抗体を用いたクロマチン免疫沈降によるデータ取得が可能となった。またデータ解析のパイプラインを作成した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、イネ幼穂ならびに各ステージの葯、また栄養成長期の茎頂分裂組織、根端分裂組織などを用い、栄養成長期ならびに生殖成長期の低温が、花粉母細胞や葯壁タペート細胞、また分裂組織のゲノム遺伝子にエピジェネティックな変化を与えるか、耐冷性の違いと相関があるかを解析する。さらにはヒストン脱アセチル化酵素やヒストン脱メチル化酵素などのヒストン修飾酵素の発現量に低温が及ぼす影響を解析する計画である。 本年度は、イネの発現データベースを用い、ヒストン修飾酵素をコードする遺伝子32種を選抜し、遺伝子特異的なプライマーを作製した。そこで今後はこれらのプライマーを用い、「ササニシキ(耐冷性極弱)」「ひとめぼれ(耐冷性極強)」において、低温処理がヒストン修飾酵素の遺伝子発現量に及ぼす影響を解析する。 また本年度は、栄養成長期や生殖成長期に低温処理したイネを用い、成長点ならびに幼穂のサンプリングの部位や時期などその方法を確立した。そこで今後は、その手法を用いて得たサンプルを用い、エピジェネティックな変化の要因について解析を進める。さらに、エピジェネティックな効果をジェネティックに評価するための基礎として、栄養成長期のメモリー効果の品種間差を評価する。 さらに本年度、イネの葉と幼穂からのクロマチン調整法について詳細を検討し、H3K4me3およびH3K27me3抗体を用いたクロマチン免疫沈降によるデータ取得を可能とするとともに、データ解析のパイプラインを作成した。そこで今後はこの手法を用いて、耐冷性が対照的な品種を用いて、幼苗期の温度環境がH3K4me3およびH3K27me3にあたえる変化について、ChIP-Seqによりゲノムワイドに解析する。
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Research Products
(9 results)