2019 Fiscal Year Annual Research Report
複雑な自然変動環境下での気温応答性を制御する遺伝子の同定
Project/Area Number |
18H03948
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井澤 毅 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (10263443)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | イネ / 出穂期 / 気温応答 / 光周性 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで、イネの光周性花芽形成にかかる遺伝子ネットワークの解明を進めてきているが、本課題では、気温応答性の分子レベルの理解を進めるために、既存の遺伝資源や新規突然変異体の選抜と原因遺伝子の単離をすすめている。今年度は、イネのGhd7,Hd1やPhy遺伝子等の光周性花芽形成ネットワークで働く遺伝子が、気温応答性と関与しているかを解析する実験を、4つの人工環境(短日高温区、長日高温区、短日低温区、長日低温区)で、各種系統を栽培し、開花関連遺伝子の発現への影響を調査した。その結果、イネの開花は、長日条件でフロリゲン遺伝子が発現抑制を受けているだけでなく、短日条件であっても、低温区では、発現抑制を受けており、特定の遺伝子の変異によって、その抑制が解除されることがはっきりしてきた。この抑制機構により、本来のイネは、緯度の高い地域では開花抑制を受けていたが、育種過程で選抜された変異により、その抑制がなくなり、栽培地域の北進が可能になったことが明らかとなってきた。また、北海道の低温抑制や長日抑制を受けない品種「ゆめぴりか」の変異体を選抜し、その中から、フロリゲン遺伝子の葉での発現が抑制を受けていないのに、出穂期が顕著に遅い変異体を十数系統、見つけている。その中に、表現型の確認や遺伝子発現への影響を確認したところ、フロリゲン遺伝子の葉での発現は短日条件で誘導されているのにかかわらず、出穂期が大きく遅れる変異体があり、フロリゲンの移動、もしくは、メリステムの下流遺伝子の活性化に必須な遺伝子であると考えられ、この分野に新しい知見をもたらす可能性が高い変異体である。今年度は、MutMap法とF3集団でのマッピングにより、遺伝子単離を進めていて、これまでに、染色体7番に座乗することが明らかとなってきている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既存の遺伝子資源の中に、気温応答と密接な関係を新規に見つけることができたので、研究は順調に進んでいると考えられる。また、新規に選抜した突然変異体もこの分野で大きな発見につながる可能性がある表現型を示している。MutMap法による遺伝子単離を模索していて、座乗染色体までは同定できているが、原因変異がはっきりしておらず、残りの研究機関で、遺伝子単離を完成させたいと考えている。一方で、緊急事態宣言によって、大学の研究活動が自粛状態にあり、今後の状況については予断を許さず、当初の計画以上とは言えない状況と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
既存の遺伝資源を用いた各種生理条件での開花期への影響と遺伝子発現への効果に関しては、実験結果の再現性を確認する現状にあり、研究活動自粛が解除されれば、半年ほどで、論文にまとめられる状況にある。 変異体からの遺伝子単離は、NGS解析データからの候補の中に原因遺伝子がはっきりせず、今後、MutMap-GAPによる原因変異の探索を進める予定である。原因遺伝子の機能として、メリステムで、フロリゲンと一緒に花芽形成を起こすことに働いている可能性が高く、新奇なFAC複合体である可能性があるので、生化学的な解析も計画する。
|