2018 Fiscal Year Annual Research Report
自然光の分光分布の時間変動が個葉の光合成に及ぼす影響を室内実験により解明する
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18H03966
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
富士原 和宏 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30211535)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荊木 康臣 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (50242160)
谷野 章 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (70292670)
松田 怜 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (20547228)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | LED / 光合成 / 環境制御 / 分光分布 / 純光合成速度 / 自然光 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然光の分光分布は日中にさまざまな時間スケールで変動するが,その変動が光合成に及ぼす影響は明らかでない。本研究では,申請者らが開発・改良してきたLED人工太陽光光源システムを用いて,自然光の分光分布の時間変動が個葉の光合成に及ぼす影響を,再現性の担保された室内実験により解明することを目的とする。また,自然環境の気温の変動を再現できる環境制御システムを開発し,分光分布の変動との複合的な影響をも明らかにする。本研究は次の2つの中課題からなる。 中課題1:自然光の分光分布変動が個葉の光合成に及ぼす影響の解明とその機構のモデル化 中課題2:気温を動的に制御可能なガス交換速度計測システムの開発,および自然環境の分光分布・気温変動が個葉の光合成に及ぼす複合影響の解明 本年度は,中課題1のうち,おもに1)LED人工太陽光光源システムの改良,および2)自然光の分光分布が時間変動する条件下における個葉の純光合成速度(Pn)の計測,を実施した。1)では,葉面における分光分布の再現精度および実験の利便性を向上させるため,光源システムの改良を行なった。光源ユニットでは,LEDモジュール内の数種のLEDを交換し,春季・秋季の晴天日正午の分光分布を高い精度で再現することが可能となった。2)では,2017年10月17日11:10~14:30に東京都文京区の建物屋上で測定した自然光の分光分布の時間変動を,1)で改良した光源システムを用いて再現し,キュウリ個葉のPnを計測した。その結果,分光分布が時間変動する条件下におけるPnは,変動しない条件で取得したPPFD-Pn曲線から推定されるPnと比較して若干低い傾向にあり,特にPPFDの低い条件下でその傾向が大であるという結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書,および本年度の交付申請書に記載した研究実施計画に,おおむねしたがって進展したため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,中課題1のうち,1)自然光の分光分布が時間変動する条件下における個葉の純光合成速度(Pn)および気孔コンダクタンスの計測を,また中課題2のうち,2)気温を動的に制御可能なガス交換速度計測システムの検討,を実施する。 1)では,屋外,および温室の葉群内を含む,種々の条件下で計測した自然光分光分布の時間変動について,LED人工太陽光光源システムを用いて実験室内で再現し,個葉のPnおよび気孔コンダクタンスの計測を行う。供試植物には人工光下で育苗したキュウリ苗を用いる。分光分布が変動する条件下における計測の事前または事後に,分光分布が変動しない条件でPPFD-Pn曲線を取得する。変動条件下でのPn実測値とPPFD-Pn曲線から推定されるPn推定値とを比較し,分光分布変動条件におけるPnと気孔コンダクタンスの実態を明らかにする。昨年度の研究結果は単一の分光分布変動パターンで得られたものであり,本年度は,このような傾向がその他の分光分布変動パターンでも観察されるか否か,またその傾向をもたらすメカニズムについて,検討・解析を進める。 2)では,昨年度購入した植物光合成総合解析システム(LI-6800;米国LI-COR社製)を用いることで,一定程度の気温の動的制御が可能であると見込まれるため,この利用可能性の検討を行う。他方,植物の葉温を制御する上では,葉周囲の気温の制御のみならず,近赤外放射の葉面上放射照度の制御が重要であると考えられる。そこで,そのような仕組みも取り入れることで,分光分布と気温・葉温の変動が個葉の光合成に及ぼす複合影響について調べることのできるシステムのプロトタイプを作製することを検討する。
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Remarks |
富士原和宏(2018)光植物学研究用LED人工太陽光光源システム. 照明学会誌 102(11): 505-509.
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