2019 Fiscal Year Annual Research Report
Metabolic pathways creating and maintaining ceramide diversity, and molecular mechanism of the pathology due to their impairment
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18H03976
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
木原 章雄 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (50333620)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脂質 / セラミド / スフィンゴ脂質 / アルファ酸化 / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
Aldh3a2 Aldh3b2二重ノックアウト(DKO)マウスの表皮では,脂肪族アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性の大幅な低下と非アシル化セラミドおよび結合型セラミド量の増加が観察された。また,DKOマウス由来ケラチノサイトにおいて長鎖塩基代謝を調べたところ,長鎖塩基からグリセロリン脂質への代謝が損なわれていた。これらのことから,長鎖塩基代謝異常がシェーグレン・ラルソン症候群の病態の原因となっている可能性が考えられる。 酵母Mpo1の触媒残基に関して知見を得るために,Mpo1ファミリーで高度に保存されている残基の変異体を作成して酵素活性を測定した。その結果,His19,His28,His115残基の変異体で大幅な活性低下が観察され,これらの3つのヒスチジン残基が鉄イオンとの結合に関与していることが示唆された。哺乳類HACL2の生理機能を明らかにするために,Hacl2 KOマウスを作成した。このマウスは正常に生まれ,成獣にまで成長した。また,Hacl2 KOマウス中の脳において2-ヒドロキシ脂肪酸の増加と奇数鎖脂肪酸を含有するセラミドとガラクトシルセラミドの減少が明らかとなった。 スフィンガジエン1-リン酸の受容体に対するリガンド活性はスフィンゴシン1-リン酸と同程度であった。細胞に脂肪酸不飽和化酵素ファミリーFADS1からFADS8をそれぞれ過剰発現すると,FADS3のみがスフィンガジエン含有セラミド量を増加させた。このことから,FADS3以外の脂肪酸不飽和化酵素ファミリーにはスフィンガジエン産生活性がないことが明らかとなった。また,重水素標識スフィンゴシンのスフィンガジエン含有セラミドへの変換のタイムコースを測定し,FADS3がセラミドを基質としてスフィンガジエンに特徴的なシス二重結合を導入することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
シェーグレン・ラルソン症候群モデルマウス(Aldh3a2 Aldh3b2 DKOマウス)の表皮から単離したケラチノサイトにおいて,長鎖塩基の代謝が著しく損なわれていることを本年度見出した。この知見は,シェーグレン・ラルソン症候群の病態の分子機構の解明に大きな手がかりを与えるものである。 Mpo1は新しいタイプのジオキシゲナーゼであり,細菌,原虫,真菌,植物に至るまで広く保存されているが,その触媒部位に関しては全く知見がなかった。本年度,3つの保存されたヒスチジン残基がMpo1活性に重要であることを見出し,これらの残基が触媒として働く鉄イオンと配位結合していることを示唆した。この知見は,Mpo1ファミリータンパク質の触媒機構の解明に大きく寄与した。 哺乳類ではMpo1の代わりにHacl2がアルファ酸化を触媒する。Hacl2およびアルファ酸化の生理機能を明らかにするため,本年度Hacl2 KOマウスを作成した。このマウスでは脳の脂質組成が大きく変化していた。この知見を基に今後の解析によってHacl2およびアルファ酸化の神経での機能解明が期待される。 スフィンガジエンは約50年前から存在が知られていたものの,その産生機構は全く不明であった。本年度の研究によってこの点に関してほぼ全てを解明し,FASEB Journalにおいて公表した。この成果はスフィンガジエンだけに留まらず,セラミドの多様性を生み出す分子機構全体の理解に対しても大きな貢献をした。 本年度の交付申請書の研究計画に記載した事項は全て予定通り実施し,当初想定していた以上の重要な知見が数多く得られた。これらのことから,当初の計画以上に進展しているという判断に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
Mpo1の生理機能について不明な点が多く残されているため,飢餓状態など,これまで検討していなかった培養条件においてMPO1の欠損が生育や脂質代謝に与える影響を調べる必要がある。本年度はHacl2 KOマウス脳における脂質の組成変化について明らかにしたが,今後,脳以外の様々な組織での遊離の2-ヒドロキシ脂肪酸,2-ヒドロキシ脂肪酸含有脂質,遊離の奇数鎖脂肪酸,奇数鎖脂肪酸含有脂質の量を測定する。脂質変化が大きかった組織に関しては,ヘマトキシリン・エオジン染色により,形態異常が生じていないかを調べる。また,生化学検査などにより,広範な表現型の探索を行う。 これまでセラミド分子種の解析は直鎖だけに限られてきた。しかし,生体内には分岐鎖脂肪酸も存在する。今後,マウスの様々な組織における分岐鎖セラミドの量と分布を明らかにし,セラミド多様性の知見を拡大する。 アシルセラミドや超長鎖セラミドはこれまで表皮にのみ特異的に存在していると考えられていた。しかし,これらセラミド類が口腔において異物や病原体の侵入の防止に働いている可能性を考え,刺激物添加実験あるいは病原菌の感染実験などによって明らかにしていく。 セラミドの代謝酸物であるスフィンゴシン1-リン酸は血漿中に多く存在し,一部は血管内皮細胞に取り込まれて,セラミドなどスフィンゴ脂質にリサイクルされる。一方,これまで血漿S1Pの細胞内取り込み機構は明らかではない。そこで,今後,S1Pがトランスポーターを介して細胞内へ直接取り込まれる可能性を重水素あるいは放射標識したS1Pを細胞に添加してその代謝を追跡することで明らかにする。これらの解析により,セラミド代謝について幅広い知見を得る。
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Research Products
(24 results)