2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18H03987
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
永井 健治 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (20311350)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | バイオイメージング / 細胞熱化学 / ジュール熱 / 細胞生理機能 / 温度プローブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、細胞の生体膜上のチャネルタンパク質における電気化学ポテンシャルで駆動されたイオン流によってジュール熱が発生し、細胞生理機能に関与する酵素活性がこの熱によって調節を受けることを提唱する「ジュール熱仮説」を検証することである。今年度は、チャネルタンパク質において発生するイオン流による微小なジュール熱発生を検出する実験系の確立のため、高感度な蛍光性温度プローブの開発、蛍光タンパク質からの蛍光強度揺らぎによる温度計測法の開発、そして光刺激によるチャネル電流発生が可能なチャネルロドプシンを細胞小器官に特異的に局在化する実験系の開発を行った。 高感度蛍光性温度プローブについては、緑色蛍光タンパク質と赤色蛍光タンパク質を融合させてフェルスターエネルギー移動(FRET)原理を用いたFRET型温度プローブの開発を昨年度から引き続き進めて、完成させた。さらに、ヒト由来のHeLa細胞中でこのFRET型温度プローブを発現させて蛍光イメージングを行ったところ、従来の遺伝子発現可能な温度プローブであるgTEMPよりも光毒性が少なく長時間の温度イメージングが可能なことを確認した。 蛍光揺らぎによる温度計測法開発では、蛍光タンパク質を発現させた細胞のタイムラプス蛍光像の統計処理で得られる高次キュムラント・タイムラプス画像データから温度を計測する。この計測法の開発はまだ予備的であるが、細胞の温度変化に伴う高次キュムラントの応答を確認することができた。 チャネルロドプシンを用いた実験系の開発においては、チャネルロドプシンを細胞小器官に局在させるためのシグナルポリペプチドおよび局在を確認するための蛍光タンパク質を融合させたチャネルロドプシンの遺伝子を構築した。これをHeLa細胞内で発現させて蛍光顕微鏡で観察を行ったところ、細胞小器官への局在と、光刺激によるチャネルロドプシンのゲーティングを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画では、温度プローブの完成と、チャネル電流発生のための実験系開発を行う予定であった。今年度開発したFRET型温度プローブでは、従来の遺伝子発現可能なRatiometric温度プローブであるgTEMPに比べて、温度に対する感度は遜色なく、非常に光毒性が少ない温度イメージングが可能であることが分かった。さらに、このFRET型温度プローブは、pHやイオンによる妨害も少ないことも確認できたので、温度計測イメージングに使用可能と判断した。FRET型温度プローブを用いることで、次年度はジュール熱発生の測定実験を展開していく予定である。これに加えて、蛍光強度揺らぎ解析による温度計測法の開発により、gTEMPやFRET型蛍光プローブとは別のタイプの蛍光タンパク質も温度計測に使用可能なことを明らかにした。また、今年度は、人工的にチャネル電流を発生させる実験系の開発にも着手した。チャネルロドプシンの発現実験系では、光刺激によってチャネル電流を発生させることができるので、蛍光顕微鏡イメージングと組み合わせることでチャネル電流と温度計測のタイミングを同期させて観察が可能になると期待される。今年度はチャネルロドプシンの発現、局在、活性を確認できたことにより、この実験系の開発も順調に進んでいるものと思われる。以上より、当研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、高感度な蛍光性温度プローブの開発、蛍光タンパク質からの蛍光強度揺らぎによる温度計測法の開発、そして光刺激によるチャネル電流発生が可能なチャネルロドプシンを細胞小器官に特異的に局在化する実験系の開発を行った。次年度は、チャネルロドプシンと温度プローブの融合蛋白質を作成しHaLa細胞などのモデル細胞系で発現させ、チャネルロドプシンの光刺激によるゲーティングと温度変化の同時測定を行うことで、ジュール熱の検出を試みる。このために、チャネルロドプシンの光刺激と、蛍光顕微鏡像の取得のタイミングを精密に制御する観察系を確立させる。また、チャネルロドプシンの光刺激に伴う温度応答は非常に微小であると予想されるので、チャネルロドプシンの光刺激と蛍光顕微鏡像取得のサイクルを繰り返して蛍光顕微鏡像を積算させる観察系も確立する。チャネルロドプシンには様々な種類が知られているので、ジュール熱発生を測定するのに適合するチャネルロドプシンを選択する必要がある。このために、文献データに基づいて適したチャネルロドプシンを数種類選定し、それらを実際に細胞内で発現させて、本研究に最適なチャネルロドプシンを選定する。また、チャネルロドプシンの実験系とは別に、「ジュール熱仮説」検証のためのチャネル電流発生として、アゴニストを用いてチャネル蛋白質のゲーティングを行う方法、そして膜電位の脱共役剤を用いることで生体膜を介したイオン流を発生させる方法を用いて温度計測を行う。さらに、イオンチャネルタンパク質を介したジュール熱発生の理論的検証も行う。ここでは、生体膜上のイオンチャネルタンパク質周囲の電場、イオン移動、そして熱伝導のシミュレーションを行い、ジュール熱の発生に伴う温度変化とその周囲の酵素の活性化を検証する。以上、実験的および理論的アプローチによる「ジュール熱仮説」検証を行う。
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Research Products
(31 results)