2018 Fiscal Year Annual Research Report
運動の恩恵効果が骨格筋から分泌されるマイオカインによって媒介されることの証明
Project/Area Number |
18H04086
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
藤井 宣晴 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 教授 (40509296)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古市 泰郎 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 助教 (40733035)
眞鍋 康子 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 准教授 (60467412)
中川 嘉 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 准教授 (80361351)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 骨格筋 / マイオカイン / 遺伝子組み換えマウス / 運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動は、単に心身の健康を整える手段としてだけでなく、疾病の予防・治療の有効な方策として国際的にも強く推奨され始めた。しかし運動の効果がどのような機序によって生じるのかの科学的理解は深まってはいない。それらが明らかになれば、「臨床的に有効性・安全性が保証された運動処方の確立」や「運動の効果を補強する薬品・食品の創製」などへ道を拓くことになり、到来しつつある超高齢社会が抱える諸問題の解決策(高騰する医療費の低減、高齢者要介護者数の抑制、健康寿命の延伸)として期待される。運動の効果は全身の臓器におよぶが、その内容は臓器ごとに異なる。これらの効果を薬で得るには、それぞれの作用を有する複数を服用する必要があろうが、身体運動の場合は筋肉を動かすという1 種類のアクションで多数の効果を全身に得られる。これら「多様性」「全身性」という特徴は、運動効果の発生機序解明の重要なカギとなる。申請者らはこの点に注目し、「骨格筋から分泌された複数の生理活性因子(総称してマイオカイン;myo=筋, kine=作動物質)が、血流を介して全身に運ばれ、運動の多様な効果を各臓器に生じさせる」というマイオカイン仮説を提唱し、研究を進めてきた。これまでに複数のマイオカインの同定に成功している。それらの中から重要な生理作用を持つものを見分けるために、マイオカインの合成を指令する遺伝子を骨格筋で不活性化させた変異ショウジョウバエ(以下、ハエ)をそれぞれについて作製したところ、寿命を短縮あるいは延長させるマイオカインが確認された。この結果は、骨格筋から分泌されるマイオカインが何らかの強力な生理作用を有していることを示唆している。これらの背景から、本研究内容の核心をなす学術的な問いは、「運動の恩恵効果はマイオカインによって生じているのか?」「個々のマイオカインが有する生理作用は何か?」の2 点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、ペルオキシレドキシン-6の骨格筋特異的過剰発現マウスの作製を完成させ、解析を進めた。ペルオキシレドキシン-6は、ショウジョウバエにおいて骨格筋特異的にノックアウトすると寿命が短縮したことから、生体にとって何らかのよい作用を有することが予想されたため、過剰発現系を採用した。これまでのところ、体重等の身体特性、血液諸成分、走運動能力などに、野生型マウスと比較して統計的に有意な相違は認められていない。骨格筋の糖取り込み能力は、非刺激時においてやや低下している傾向が認められており、糖代謝調節系に変容が現れている可能性が示唆されている。一方、マイオカインB(正式名は伏す)はショウジョウバエのノックアウトにおいて寿命が延長したため、何らかの悪い作用を有することが予想されている。この骨格筋特異的コンディショナル・ノックアウトマウスが年度末に完成させることができた。今後、飲水にデキサメタゾンを加えることによって、骨格筋特異的なマイオカインBのノックアウトが可能かどうかを確認する必要がある。2019年度には、種々の解析に移行することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
ペルオキシレドキシン-6の骨格筋特異的過剰発現マウスについては、骨格筋において非刺激時の糖取り込み量の低下傾向が観察されたため、この表現型が確かなものかどうかの確認を行う。確認が取れた場合、糖代謝調節に変容を与えた原因を探る。糖取り込みの直接的な調節分子であるグルコーストランスポータの発現量を含め、糖取り込みに関連する既知の細胞内情報伝達経路の作動に変化が生じているかどうかを明らかにする。また、筋グリコーゲン量も糖取り込み量に影響を与えることが明らかになっているため、グリコーゲンの合成・分解経路についても検討する。また、骨格筋だけでなく、他の遠隔臓器に変化が生じているかどうかも検討する。 マイオカイン-Bの骨格筋特異的コンディショナル・ノックアウトマウスについては、飲水にデキサメタゾンを加えることによって、骨格筋特異的なマイオカインBのノックアウトが可能かどうかを確認する。確認されたのちは、ペルオキシレドキシン-6過剰発現マウスと同様な、基本的な表現型解析を行う。その過程で、野生型マウスと異なる特徴を認めた場合は、その背景にある原因を特定し、マイオカインBの生理的役割、および運動におけるマイオカインBの役割を明らかにする。
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