2019 Fiscal Year Annual Research Report
A Study on the Historical Development of the Sino-Tibetan Languages and their Typological Geography
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18H05219
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 巧 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (90259250)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大西 克也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10272452)
林 範彦 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (40453146)
星 泉 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (80292994)
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Project Period (FY) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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Keywords | シナ=チベット諸語 / 古代漢語 / チベット語 / 牧畜民型と農耕民型 / 言語類型地理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
■現地の専門家の協力のもとでチベット=ビルマ諸語の未記述言語についての調査を行なった。星泉がアムド・チベット語における牧畜民の民俗語彙、海老原志穂がブータン諸語における牧畜文化語彙を収集した。池田巧はムニャ語東部方言の基礎語彙を記録し、ブータンのケンカ語の基本構造を記述したほか、海外研究協力者の達娃扎西は池田巧と共同でチベット語カム方言の口語語彙を記録し、黄成龍と周發成は羌語方言のデータを収集した。桐生和幸がメチェ語、本田伊早夫がカイケ語の方言調査を継続した。漢語における周辺言語からの影響については太田斎が淳化方言、黄沈黙が蛮講方言の記述調査を行なった。■民族文字資料の研究では、荒川慎太郎が西夏文献の法華経写本残巻を、岩佐一枝が彝文字資料に見える否定辞について調査した。岡野賢二と澤田英夫は、ビルマ文字、ピュー文字、モン文字碑文の撮影を行ない、西田愛は、ラダックに残るチベット語碑文の予備調査を行なった。■古漢語の研究では、松江崇教授の科研プロジェクトとの共催で、9月に宮崎大学にてシンポジウム「漢語史研究における動態的観点と静態的観点」を開催し、古漢語の受身文の特徴や否定辞の機能と通時的発展について論じた。■類型論と歴史的展開の分析では、論集『シナ=チベット系諸言語の文法現象2 使役の諸相』を刊行したほか、5月に神戸市外国語大学で開催された第27屆國際中國語言學學會においてシナ=チベット諸語における否定をテーマにワークショップ《漢藏語言學論壇》を開催した。2020年1月には北京大学(中国)の林幼菁教授、マヒドン大学(タイ)の Weera Ostapirat 教授、Timotheus Adrianus Bodt 氏(PD、SOAS London)を招いて Workshop on Negation and Sino-Tibetan Languages 2 を開催することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
■代表者、分担者、研究協力者それぞれが長期的な展望のもとで取り組んでいる研究に、本科研の設定課題の調査分析を組み込んで研究テーマの連携を図るなどして、相乗作用により研究が進展するように工夫を重ねており、その効果が順次現れてきている。本科研の参画者は、現地研究者や発話協力者、コーディネーターの助力を得て各言語の記述調査や文献調査を行ない、類型構造の分析を進め、歴史的発展の跡づけを行なっている。こうした研究作業の各段階において明らかになった諸特徴を記述して報告にまとめ、各論を展開しそれを集積していくという一連の研究活動のルーティーンは、すでに軌道に乗ったと言えるだろう。2019年度に開催した否定の類型構造の分析をテーマとするワークショップ、およびシンポジウムにおける討論の成果は、本年度中に取りまとめて編集し、論集を刊行して広く一般に公開する予定で準備を進めている。■昨年度来編集を続けてきたチベット学に関する概論書『チベットの歴史と社会』がまもなく刊行となる。本書は関連分野である歴史学・宗教学・社会学・言語学の気鋭の研究者による共同研究の成果であり、有機的な相互関連のもとでチベット社会の形成と動態について学際的に分析を試みた意欲的な著作である。なかでも言語篇は、本科研のメンバーが執筆を担当しており、シナ=チベット系諸言語の中核をなすチベット語の歴史、方言分布と特徴、口語の発展と文語の形成、類型論と系統論について、現在までの研究で何がどこまで解明され、どのような研究課題が存在するのかを詳細に論述した。本書はいわば総論としてチベット語研究の基本的な指針を示すとともに、本科研の研究活動で展開している分析の各論が、チベット語と周辺言語の研究のなかで、どのように位置づけられるのかを提示している。この概論の刊行は、本科研の研究活動の前半におけるひとつの大きな成果といえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
■これまでの研究実績を基礎に、未記述言語や未記述事象に関するデータの補充と類型構造の分析を進める。春と秋に定例の研究集会を継続開催し、共通課題として選定した類型構造を分析して言語間の対応と差異を検証する。検討中の課題には、*能格構文 *声調交替の文法機能 *音調のメカニズム *動詞接辞の機能と発展 *確認性の表示 などがある。取り上げる類型構造は、研究動向とデータの蓄積、分析結果の有意性などを勘案して、適宜判断していきたい。分析の成果は論集シリーズの刊行とあわせ、必要に応じてデータベースや資料集などの形に整備して利用に供したい。■本科研の発足当初、2021年に京都大学での招致開催を予定していた国際シナ=チベット言語学会は、2020年度は合衆国の北部テキサス大学での開催が決まったあと、その翌年に中国の西南交通大学が名乗りを上げたことを受けて、開催候補国の代表者間での調整の結果、京都大学への招致開催は2021年度以降に持ち越さざるを得ない状況となった。■この調整に関連して、西南中国のチベット=ビルマ諸語に地域と対象を限定した、いまひとつの国際学会から依頼があり、調整の結果、2021年度に分担者の林範彦教授が事務局となり神戸市外国語大学にて 6th Workshop on Sino-Tibetan Languages of Southwest China《第六屆中國西南地區漢藏語國際研討會》の開催が決定した。本科研の研究報告の場として組織し、研究成果の公開に繋げたい。■なお新型コロナウィルスによる感染症の拡大を受けて、国外出張による現地調査や国際学会への参加、および国内での研究集会等の開催が暫時停止せざるを得ない状況に追い込まれている。その間は代替措置としてこれまでに蓄積した研究資料の整理と分析に努め、不足の点や探究すべき事象を整理して明らかにしつつ調査活動の再開に備えたい。
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