2021 Fiscal Year Annual Research Report
A Study on the Historical Development of the Sino-Tibetan Languages and their Typological Geography
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18H05219
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 巧 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (90259250)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大西 克也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10272452)
林 範彦 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (40453146)
星 泉 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (80292994)
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Project Period (FY) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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Keywords | 中国語 / チベット=ビルマ諸語 / 記述言語学 / 国際シナ=チベット言語学会議 / 語彙集 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究成果のひとつとしてアムドチベット語の方言語彙集の作成を目指していたが、国内ではチベット文字と複雑な音声記号の入力ができる業者がないことから、研究方式を見直し、研究代表者と日本在住の現地語話者がデータ入力とチェック作業を実施することになり、予算を繰越して期間を延期した。現地語話者の参画可能な令和4年1月からデータ入力とチェック作業を実施して年度末まで継続した。2022年9月に本科研の代表者と分担者が事務局となり、京都大学にて 55th International Conference on Sino-Tibetan Languages and Linguistics[第55回国際シナ=チベット言語学会議](ICSTLL-55)を招致開催した。コロナ禍により訪日が厳しく管理されていたため、国内参加者が集う現地会場からの中継と、国外からのオンライン参加とによるハイブリッド開催となったが、100余名にのぼる研究報告があり、先端的な学術交流の場において、本科研による最新の研究成果を報告することができた。白井聡子がダパ語の方言、倉部慶太はジンポー語、澤田英夫はロンウォー語、鈴木博之はチベット語カム方言、林範彦がジノー語、本田伊早夫がカイケ語、桐生和幸がネワリ語の類型構造の諸特徴について、記述分析の成果を報告したほか、民族文字資料の研究では、荒川慎太郎が西夏写本における字形の派生関係について、岩佐一枝は彝文字の否定辞を中心に字形の地理分布を考察した。また加藤昌彦はカレン語の文字システムについて表記上の問題点を指摘した。中国語の研究では、黄沈黙が蛮講方言の否定辞ついて、松江崇と宮島和也が古代漢語における方言語彙について、戸内俊介が類別詞の発生について分析結果を発表した。これらの諸報告は、学会終了後に論文集にまとめて出版する予定であり、著者に改訂と執筆を依頼して編集作業に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表者、分担者、研究協力者それぞれが長期的な展望のもとで取り組んでいる研究に、本科研の設定課題の調査分析を組み込んで研究テーマの連携を図るなど、相乗作用により研究が進展するように工夫を重ねており、その効果が継続して現れてきている。コロナ禍により、現地における記述調査や文献調査は一時中断をせざるを得ない状況が続いたが、遠隔によるインタビュー調査が可能な地域の言語もあり、また日本在住の話者の協力を得るなどの工夫をしてデータの充実を図っている。2021年度もひきつづき、これまでに蓄積してきた調査データを整理しつつ類型構造の分析を進め、歴史的発展の跡づけを行ない、研究と分析の各段階において明らかになった諸特徴を記述して報告にまとめ、各論を展開しそれを集積していくという一連の研究活動のルーティーンを維持しながら、コロナ禍の不利な条件を克服すべく工夫を重ねてきた。本科研による未記述言語の調査報告として、海老原志穂がアムドチベット語ホワリ方言、黄沈黙が漢語蛮講方言、研究協力者の根岸美聡が漢語臨海方言、渡邉美穂子がブータンのツァンラ語の語彙集の編纂を進めているが、音声記号と民族文字のデータ変換をめぐって技術上の問題が生じたため、これらの著作および論集シリーズは、編集作業の基本から見直しを迫られたものの、解決に向けて体制を見直し、編集を継続して次年度以降の刊行を目指すこととした。2022年9月には本科研の研究集会に代えて第55回国際シナ=チベット言語学会議(ICSTLL-55)を召致開催した。国内外から約100に及ぶ最新の研究成果の報告があり、活発な討論が行われた。本科研メンバーによる研究報告を中心に論文集を編集してこれまでに刊行してきた『シナ=チベット系諸言語の文法現象』シリーズの1冊として出版し、京都大学のレポジトリを通じて広く一般に公開していく。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究実績を基礎に、未記述言語や未記述事象に関するデータの補充と類型構造の分析を進める。春と秋に定例の研究集会を継続開催し、共通課題として選定した類型構造を分析して言語間の対応と差異を検証する。検討中の課題のうち、*声調交替の文法機能 *動詞接辞の機能と発展 については、すでに論集『シナ=チベット系諸言語の文法現象』シリーズの3「方向接辞の機能」にて刊行した。*音調のメカニズム については、論集シリーズの1冊として編集をすすめており、来年度中に刊行の予定である。このほか、シナ=チベット諸語における *確認性の表示 *能格構文 などの特色ある類型構造については、研究動向とデータの蓄積、分析結果の有意性などを勘案して適宜取り上げていきたい。分析の成果は、論集シリーズの刊行とあわせ、必要に応じてデータベースや資料集などの形に整備して研究利用に供する。第55回国際シナ=チベット言語学会での研究報告は、本科研の研究成果のまとめとして、論集シリーズの続刊として刊行する予定で編集の準備に着手した。また本科研による未記述言語の調査報告として、海老原志穂がアムドチベット語ホワリ方言、黄沈黙が漢語蛮講方言、研究協力者の根岸美聡が漢語臨海方言、渡邉美穂子がブータンのツァンラ語の語彙集の編集を進めるほか、代表者の池田巧はムニャ語の類型構造について記述分析を行ない、東西方言の諸特徴と音韻対応を明らかにするべく、分析結果を報告する論文の執筆を進めている。またリュズ語の調査資料を整理して音韻・語彙・文法の概要について論述を行なうとともに、清代の古記録である《呂蘇譯語》の校本の作成と音訳漢字で記録された語彙の分析を進め、その間をつなぐ資料として19世紀のイギリス外交官が記録したリュズ語の語彙リストの分析を行なう予定。研究成果の一部は、科研のウェブサイトを随時改訂しつつ公開を進めていく予定である。
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