2019 Fiscal Year Annual Research Report
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18H05224
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鍵 裕之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70233666)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 勝敏 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 客員共同研究員 (30356331)
佐野 亜沙美 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 副主任研究員 (30547104)
小松 一生 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50541942)
飯塚 理子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 客員共同研究員 (80632413) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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Keywords | 水素 / 地球深部 / 高圧 / 中性子回折 |
Outline of Annual Research Achievements |
高圧下での中性子回折実験を基軸として、既にいくつかの重要な成果が得られつつある。 氷惑星内部の物性とも関連する氷の高圧相の研究に関しては、いくつかの大きな進展があった。氷VII相からVIII相の相転移速度を低温高圧下中性子回折実験によって詳細に解析したところ、10 GPa付近で相転移速度が最も遅くなるという現象を発見した。この現象は加圧によって水分子の回転速度が遅くなると同時に、隣の水分子への水素の移動が速くなるというクロスオーバーモデルで説明できることが明らかになった。これまで氷VII相は10 GPaでさまざまな物性値の異常が報告されており、その原因は未解明のままであった。本研究で明らかになった水素ダイナミクスの変化が、さまざまな実験で報告されていた氷VII相の高圧下での異常な振る舞いの起源を説明できる可能性がきわめて高い。また、我々はIc相と同じ水分子のフレームワークをもつ水素ハイドレートの高圧相(C2と呼ばれる)を低温下で脱圧することで、水分子のフレームワークを保ったまま水素分子のみを取り去り、積層不整のない氷Icを合成することに成功した。 金属水酸化物、水和物の構造と物性については、ルビジウムとセシウムの重炭酸塩の高圧下での構造変化をX線回折と中性子回折測定から明らかにした。その結果、重炭酸ルビジウムが約0.6 GPaで高圧相に構造変化することを新たに発見した。相転移の際には重炭酸イオンの2量体構造が無拡散相転移することも結晶構造解析から明らかになった。また、ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧下単結晶X線回折とパルス中性子を利用した高圧下粉末中性子回折を併用して、塩化マグネシウム六水和物の結晶構造を解明することに成功した。 鉄水素化物の結晶構造と水素の固溶量に関してもいくつかの成果が得られつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画で挙げた3本柱、すなわち①高圧下での氷の構造と物性、②含水鉱物、金属水和物の構造と物性、③金属水素化物の相関係と結晶構造について、平成30年度から順調に研究を遂行している。本研究費で導入したX線回折装置や分光装置が順調に稼働し、高圧実験で必要となる高額な消耗品についても経費の心配をすることなく使用することができ、日々の実験室レベルでの研究が滞りなく進んでいることが研究グループ一同の喜びである。 また、本研究計画を遂行には、J-PARC パルス中性子実験施設における高圧実験によるところが大きい。これまで同施設において、大きなトラブルがなく高出力でのビーム運転が継続されたこと、そして我々の研究グループが潤沢にビームタイムを獲得できたことも本研究を遂行する上でプラスに働いている。 本研究計画の特徴は、さまざまな技術開発を行いながら高圧実験を行う点にある。これまで本研究計画で推進してきた研究項目は、広く国際的に利用可能な実験装置と技術では達成が困難なものばかりである。継続的に研究を遂行しながら最適な実験装置・実験技術の開発を進めることで、世界の研究ライバルが追従し得ない研究成果をあげている。 このような理由と背景から、これまで本計画は順調に研究が進展しており、期待どおりの成果を見込むことができる。申請書では計画していなかった研究シーズも順調に発展しており、研究計画終了時には期待以上の成果が見込まれる可能性もあるが、現時点では明確ではない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究経過を踏まえて、本研究計画で挙げている3項目について今後の推進方策について述べる。 氷関係の研究は、これまでは主として低温高圧条件での中性子回折実験によって、氷高圧相の秩序-無秩序転移や相転移のダイナミクスに関する研究成果を得ることができた。現在は、高圧下での誘電率測定に加えて比熱測定の実験技術を開発し、新たな研究方法を立ち上げつつある。今後も高圧下という極限条件において、複数のプローブを用いたその場観察を行い、氷の構造と物性に関するさらなる知見を得るべき実験を進める予定である。 鉄水素化物の結晶構造、特に水素原子の位置を調べるためにはマルチアンビル高圧発生装置を用いた高温高圧条件における中性子回折実験を行う必要がある。また、地球中心核に含まれる水素原子を念頭に置いて実験を行うためには、できるだけ高い圧力を発生させる技術開発が不可欠となる。やや専門的になるが、6-8型の2段押しアンビルの高圧発生技術を開発することにより20 GPa以上の条件で高温高圧実験を行うことを目指す。この技術開発によって、マントル遷移層に相当する条件での実験が可能となるだろう。 塩水和物と高圧含水相の構造と物性に関しては、すでに高圧条件で初めて見いだされた塩化マグネシウム水和物の新たな結晶構造の解明を行ったが、今後も塩化マグネシウム水和物の新たな高圧相の探索を継続する。また、水素結合対称化の温度依存性をβ-CrOOHを研究対象として解明する予定である。これまで水素結合対称化は室温条件で観測されていたが、高温高圧条件での観察は未踏領域である。
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Research Products
(16 results)