2020 Fiscal Year Annual Research Report
マントル遷移層スラブの軟化と深発地震に関する実験的研究
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18H05232
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
久保 友明 九州大学, 理学研究院, 教授 (40312540)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
肥後 祐司 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (10423435)
鈴木 昭夫 東北大学, 理学研究科, 准教授 (20281975)
金嶋 聰 九州大学, 理学研究院, 教授 (80202018)
宮原 正明 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 准教授 (90400241)
坪川 祐美子 九州大学, 理学研究院, 助教 (40824280)
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Project Period (FY) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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Keywords | 地球内部物質 / 相転移 / 変形破壊 / 高温高圧 / 放射光 |
Outline of Annual Research Achievements |
D-DIA型およびD-111型高圧変形装置と放射光単色X線を用いた下部マントル最上部条件までの定量的な変形実験とAE測定手法をほぼ確立した。 D-DIA型を用いた10GPa付近でのFe2SiO4のオリビン-スピネル変形相転移実験では、一軸圧縮変形場で母相粒内に新相ナノガウジが形成されせん断不安定化の起点となり、そこから垂直方向に新たな細粒スピネルが形成され変形の局所化につながることが明らかになった。これらの組織は衝撃変成隕石と類似している。粗粒でせん断変形場での実験も開始し、100%超える大歪場において活発なAE活動とせん断面に平行な相転移断層の形成を確認した。 D-111型を用いた(Mg,Fe)2SiO4のオリビン-スピネル変形相転移実験を圧力15-20GPaの一軸圧縮変形場で開始した。過剰圧が大きい条件で非常に柔らかい細粒新相が出現するが試料全体の軟化にはつながっていない。Fe2SiO4と類似の変形相転移組織も観察されているが、活発なAEが発生する条件は捉えられていない。同様に20-25GPaで(Mg,Fe)2SiO4のポストスピネル変形相転移実験では、ポストスピネル共析コロニーが出現する過程で顕著な軟化現象は見られず、新相のブリッジマナイトは母相よりも硬い。共析コロニーは細粒ラメラであるが単結晶的でほとんど変形をしていない。これらの結果は相転移する遷移層スラブの力学挙動を直接的に議論するうえで極めて重要である。 非オリビン成分に関しても、輝石の高圧相転移、輝石―ガーネット相転移、クローライトの圧力誘起構造変化、ローソナイトの脱水反応、ホーランダイトの二次相転移と変形との相互作用について検討を行っている。またスラブ地震学の手法を用いてKulil, Izu-Bonin地域において、660 km地震波不連続面の凹凸を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の初期段階でD-111型高圧変形装置一式の九州大学への導入が遅れたが、2020年度までにその遅れを取り戻し、8端子のD-111型AE測定システムの開発もほぼ完了した。D-DIAに装着するMA6-6型AE測定システム、D-111型に装着するKMA型AE測定システムともに同程度の精度で震源決定を行えるようになった。これによりマントル遷移層条件で放射光とAE測定システムを用いた定量的な変形相転移実験をほぼルーチンに行うことが可能となり、マントルオリビンのスピネルへの相転移およびポストスピネル相転移と変形との相互作用について直接的な検討が開始され、これまでにない新しい結果が得られつつある。これまでに行ってきた低圧のアナログ物質での結果や衝撃変成隕石の成果をふまえて解釈することで、相転移と変形が相互作用する複雑なプロセスの解明につながると期待される。また本研究で開発された実験技術をもとに、非オリビン成分の相転移についても同様の検討を開始しており、遷移層スラブの軟化とせん断不安定化について多様な検討を行っている。論文執筆が遅れているものの実験研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
D-DIA型装置を用いたFe2SiO4の相転移については衝撃変成隕石の組織と比較しながら一軸圧縮変形場での成果をまとめつつ、せん断変形場で観測しているAE発生条件を粒径やひずみ速度、反応量等をパラメータにして制約する。D111型装置を用いた(Mg,Fe)2SiO4のオリビンースピネル相転移、ポストスピネル相転移については現在までの初期成果を短報にまとめつつより幅広い条件で実験を行い、遷移層スラブの軟化とせん断不安定化プロセスを直接的に検討する。前者についてはFe2SiO4と類似の変形相転移組織も得られており、EBSDとTEMによる解析を進めつつ、これまで個々に行っていた放射光実験とAE測定実験を同時その場観察で行い、決定的なデータを得ることを目指す。後者については、アナログ物質同様にマントルのポストスピネル相でも共析コロニーが硬い可能性があることが示せつつあり、今後、コロニー組織の崩壊にともない軟化現象がおこるかどうか実験的に検討し、下部マントルスラブの強度変化に制約を与える。非オリビン成分についても、クローライトの構造変化や輝石―ガーネット相転移などで活発なAE活動を示すことが本研究で確認されており、脆性―塑性転移を超えた条件でのせん断不安定化のトリガーとなり得るかどうかについて、実験研究をすすめる。
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Research Products
(14 results)