2018 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の教育メディアと〈教員の物語〉の総合的研究
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18J00021
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
出木 良輔 同志社大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 教育史 / 田山花袋 / 教育言説 / 教育雑誌 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は基礎的な調査と資料の収集・整理を集中的に行い、今後の研究基盤を構築することに専念した。具体的にはまず、国会図書館や各地の大学図書館で『小学校』『教育実験界』『教育界』などの教育雑誌における文学作品および文芸関連記事の掲載状況を網羅的に調査した。この調査の結果、島崎藤村や夏目漱石の諸作品を意識しながら教員たちが創作活動を営み、教育雑誌がその発表の場として機能していた事実が明らかになった他、幸田露伴とその弟子たちや硯友社同人が〈教師もの〉とでも呼ぶべき小説を『教育界』に寄せ、明治30年代の教育界のイデオロギー形成に加担してもいた可能性が浮上した。 また、この調査によって得られたデータを基に、明治期の教育雑誌に掲載された文学作品及び文芸関連記事を目録化したものをresearchmap上に公開したhttps://researchmap.jp/d-ryosuke/%E8%B3%87%E6%96%99%E5%85%AC%E9%96%8B/)。大正期以降の掲載記事についても、現在公開に向けて整理を進めている。 学術論文として公表した成果としては、「『田舎教師』の「理想」の行方―林清三を取り巻く言葉とまなざし―」(『国文学攷』2018年6月)がある。明治後期から大正期の言説空間には、学歴の階梯からこぼれ落ちた哀れな落伍者としての〈田舎教師〉という表象が頻出し、文学作品にもしばしばそうしたイメージがあらわれる。ここではその典型とも言える田山花袋『田舎教師』(明治42年)を取り上げ、同作の教員表象について考察した。主旨自体は2016年の口頭発表に基づいているが、作品内に登場する教員と教え子の関係性に焦点を絞ることで、同作の表現の特異性を掘り下げたものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目に見える成果が学術論文一編のみとなってしまった点については本年度の反省点である。ただ、上述のように基礎的な調査を進めることで今後の研究活動の基盤を構築すると共に、得られたデータの公開に至ったことは本年度の大きな収穫であった。 現在は資料整理と読解を進めている最中だが、本年度得られたデータに基づく研究発表を行う予定が既にある。以上の点から、本研究は「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は関西に研究拠点を移して最初の年度だったこともあり、様々な研究会・学会に積極的に足を運び、研究ネットワークの構築にも努めた。その中で様々な研究者と出会い、議論を重ねることが出来たことは大変有意義だった。 上述のように、目に見える成果が学術論文一編のみとなってしまった点において反省すべき一年であった反面、体感としては実り多い一年でもあった。本年度をインプットの期間として位置づけ、次年度以降をアウトプットの時間に充ててゆきたい。
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Research Products
(5 results)