2018 Fiscal Year Annual Research Report
北西太平洋のサンゴ試料に基づく完新世亜熱帯循環変動と東アジアモンスーン水循環復元
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18J00070
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
平林 頌子 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ウラン系列年代測定 / 放射性炭素年代測定 / サンゴ骨格 / 海洋循環変動 / ローカル海洋リザーバー年代 / ウラン同位体 |
Outline of Annual Research Achievements |
北太平洋亜熱帯循環の西岸境界流である黒潮は、熱帯域から極域に向けて熱を輸送し、東アジア地域の水循環変動に大きな影響を与える。そのため、東アジアモンスーン水循環変動メカニズム解明のためには、黒潮変動を理解することが重要である。 サンゴ骨格中の放射性炭素(14C)やウラン(U)系列核種は、海水の化学トレーサーとして使用することができる。本研究では、サンゴ礁コアを用いた14CおよびU系列核種分析による完新世亜熱帯循環変動および東アジアモンスーン水循環変動復元を目的としている。 本年度は主に黒潮流域のサンゴ礁コアに着目し、ルソン島、小宝島、母島のサンゴ礁コアの骨格観察・化学分析を開始した。サンゴ骨格中の14CとU/Th年代測定から求められるローカル海洋リザーバー年代(ΔR)を海洋循環変動の代替指標とし、4-7 ka BPの期間における黒潮流域のΔR変動について、議論を行なった。本年度は、この分析結果について、国際学会・シンポジウムで発表し、さらにルソン島におけるΔR変動については国際雑誌に論文が受理された。ハワイでの国際学会発表をきっかけに、国立台湾大学との共同研究も開始することとなり、国立台湾大学にて微量炭酸塩試料を用いたU/Th年代測定の技術を習得した。この技術を応用することで、今後、さらに高時間分解能でのΔR復元が可能になると期待できる。 また、本年度は海洋循環のトレーサーとなるU同位体比(δ234U)の測定手法開発にも着手し、東京大学大気海洋研究所およびオーストラリア国立大学にてU同位体抽出のための化学前処理法の開発を行なった。海水100mlから分析に十分量のウランを抽出することに成功したが、海洋循環の代替指標として使用するためには更なる分析精度の向上が必要があることが判明した。今後は化学前処理法のみならず、測定機器について、最適な分析方法の検討が課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、サンゴ骨格の放射性炭素およびウラン系列核種を使って海洋循環を復元する研究を中心に実施した。海外との大学研究機関との共同研究を積極的に行い、新たに国立台湾大学、James Cook Universityとの共同研究を開始するなど、今後の研究発展のための活動も行うことができた。オーストラリア国立大学には約半年間滞在し、本研究課題において重要な結果となる、黒潮流域における中期完新世のローカル海洋リザーバー年代を得ることができた。国立台湾大学での滞在では、ウラン系列核種分析について、微量炭酸塩試料を用いたU/Th年代測定の新しい分析技術を習得した。国立台湾大学とは、今後も高時間分解能での海洋循環復元のためのU/Th年代測定に関する共同研究を行う許可を得ることができている。学会発表においても高評価を得ることができ、研究成果の一部については国際誌への論文掲載にも至った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、黒潮流域・黒潮続流域のサンゴ骨格分析について、4 ka BPよりも若いサンゴ試料の放射性炭素およびウラン系列核種年代測定を行い、先行研究と合わせて、過去1万年間にわたる北太平洋ΔR変動について考察していく予定である。今年度習得した微量試料(約100μg)の炭酸塩試料を用いたU/Th年代測定法を用い、今後はさらに高時間分解能ΔR復元が可能になると期待できる。さらに、Japan Australia Sangosho Geomorphology (JASAG) シンポジウムにて、シンポジウムに参加していたオーストラリア・James Cook UniversityのStephanie Duce博士から新たに太平洋のタヒチのサンゴコアを提供してもらうこととなった。受入研究室には、熱帯太平洋に位置するキリバス・タラワ環礁のサンゴ骨格も保管されており、今後はタヒチ・タラワ環礁など熱帯太平洋を含めた広範囲における完新世ΔR変動復元を行う予定である。 また、海水中ウラン同位体比測定については、本年度は海水100mlから分析に十分量のウランを抽出することに成功したが、海洋循環の代替指標として使用するためには更なる分析精度の向上が必要があることが判明した。今後は化学前処理法のみならず、測定機器について、最適な分析方法の検討が課題である。
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Research Products
(6 results)