2018 Fiscal Year Annual Research Report
統合的水政策を推進するグローバル行政の構造と法の役割
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18J00138
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
平野 実晴 神戸大学, 法学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 水に対する人権 / 持続可能な開発目標(SDGs) / グローバル行政法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究プロジェクトの1年目であり、幅広い資料を収集することを、第一義的な目的としていた。先行研究のレビューは、関連文献の多さから完了していないものの、重要なものに関して整理を進めることができた。また、水に関する国際法および関連実行について、順調に資料の収集と整理を行うことができた。特に上半期には、指標によって国の行動の進捗管理が行われる持続可能な開発目標(SDGs)について重要な国際的プロセスが複数あり、この機会を活用して海外の会議で調査を行った。 当初の予定では、グローバル行政法論について、その歴史的な発展過程を文献調査によって整理することまで本年度に行うこととしていた。しかし、本プロジェクトが、水という素材に着目し、理論を特定の領域の実行を説明できるか検討する事例研究としての性格を有することから、様々な文献および実行の調査に時間を取られることとなり、当初に予定した通りに理論研究に時間を割くことができなかった。来年度にも、引き続き行うべき実証研究が存在していることから、グローバル行政法論の史的分析については先行研究に譲り、水に関する国際実行の説明力の検証と、国内水法との比較によって導かれる示唆に焦点を絞り、今後の研究を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究のレビューは、伝統的な国際水法の枠組みとは異なった斬新な先行研究に焦点を当て、リサーチデザインの新奇性の観点からまとめた。 判例の検討も徐々に進めている。特に、研究協力者として参加した研究プロジェクト『「水資源」の衡平利用と損害防止法理の再構築:河川・海洋をめぐる法原則の新展開』(科研17K03398)の判例研究会において報告した。この成果は来年度に刊行される予定のケースブックに掲載される。 国際実行の調査として、6月には、国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)に出席し、で水に関する目標6の進捗評価の内容と、それに対する国家や市民社会、その他のアクターの発言等を確認した。8月には、ストックホルム世界水週間に参加し、SDGsなどに関し実務者の間で共有されている問題意識の所在が明らかになった。当初の研究計画には含めていなかったが、10月に開催することになっていた国連欧州経済委員会(UNECE)が事務局を務める「越境水路及び国際湖水の保護及び利用に関する条約」の締約国会議に出席し、初の国家報告制度の実施結果や、SDGsの越境水域に関するターゲットのレビューの内容と、それに対する政府等の発言を確認した。 国内での実行についても、企業や水道事業体の関係者などへのインタビューも行い、SDGsの国内実施の考え方について、有益な示唆を得た。 本研究の特徴は、多様な水に関する国際的な規範的実行を、グローバル行政法の理論枠組みを用いて概念的に整理する点にある。この理論的検討を行う前段階として、本年度は、国際法と国内行政法を比較対象としてみることができるかという視点から、国際法上の水に対する人権と日本の水道法の関係性について考察を加え、国際ワークショップや研究会で報告し、論文を公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目に幅広く収集した資料を基に、2年目は学説が指摘する論点の検討や実行の分析を通して、水に関する国際的な枠組みをグローバル行政の構造として体系化する作業を行う。上半期の間に、資料の検討と現時点で達成された分析結果の学会報告を行う。 第一に、水に関する国際法を扱った先行研究のレビューを進め、伝統的な国際水法の枠組みとは異なった斬新な先行研究についてリサーチデザインの新奇性の観点からまとめ、学会で報告する(報告タイトル:『「水と国際法」に関する近年の研究の展開』、学会名:環境法政策学会)。また、関連書籍の紹介を執筆し、投稿する。 第二に、国際実行の調査として、取り寄せやオンラインで入手できる資料の他、8月に開かれるストックホルム世界水週間に参加し、最新の国際機関の政策やプロジェクトの内容を確認する。 第三に、グローバル行政の理論枠組みに関し、先行研究と実行の実証分析を踏まえ、自ら提唱するモデルを構築する。この内容は、研究会や学会で報告する(報告タイトル:「『水のグローバルガバナンス』の行政法的分析―水に対する人権の実現過程に着目して」、学会名:国際法学会)。ここで得られる知見を踏まえ、論文を執筆する。 以上を通して、秋ごろには、「水政策に統合的アプローチを求める水循環の視点」という大きな問題関心をどのようにグローバル行政の構造の中でとらえる枠組みづくりの方針が明確になると予想される。そこで、下半期には、最終目標である書籍の刊行に向け、執筆を開始する。年度末から来年度前半にかけて、在外研究を行い、海外で自らのアイデアを発表し、構想を練るための基盤とする。
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Remarks |
研究者自身のホームページ
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Research Products
(4 results)