2018 Fiscal Year Annual Research Report
Intellectual interaction between early modern China and Europe
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18J00160
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
新居 洋子 立教大学, 文学部, 特別研究員(PD) (10757280)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 在華宣教師 / 清朝朱子学 / 天主教と陽明学 / 漢文キリスト教教理書 / 明治日本キリスト教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究の目的に掲げた3点のうち(1)在華イエズス会士による中国思想の翻訳の内容・特色、(2)中国における西学の翻訳・解釈・影響の解明に重点を置いた。 (1)については、康熙帝に仕えたブーヴェの『古今敬天鑑』を出発点とした。在華イエズス会士がヨーロッパへ向けて儒教を翻訳する際、当時の官学であった朱子学の著作をしばしば典拠としたことは先行研究が明らかにしている。ただし彼らは天の崇拝という点での古代の本来の儒教とキリスト教との一致を唱える一方で、太極や理を根元とする朱子学的万物生成観は長らく否定していた。そのなかで『古今敬天鑑』は、道学などの影響で本来の「敬天」の教えが歪められた儒教に対し「改革」を試みたのが朱熹らだったと評価する。 こうした態度が現れる主因となったのは康熙帝の存在と王陽明による朱熹像と考えられる。この点をさらに追究するため在華イエズス会士による『康熙帝遺詔』仏語訳と、王陽明の手批本を底本とし受洗した官僚の孫元化の標題が付された『新鐫武経七書』を調査した。 (2)に関しては、まずキリスト教が明清社会に引き起こした反応をめぐる関連史料や先行研究の要点を整理し、概説や書評の形で寄稿した。その上で膨大な数にのぼる明清時代西学書の全体像を把握するため、影印版および関連する先行研究を調査した。さらに西学の影響の射程をはかるため、明清時代の漢文キリスト教教理書のうち明治日本に伝播、流通したものに着目し、調査した。 これらは明治期に開港に伴って日本に進出してきたパリ外国宣教会の宣教師や、三島良忠ら信徒によって改変を加えられ、広く流通している。そこに漢籍訓読からキリシタン版や蘭学にいたる、海外情報の翻訳で採られてきたさまざまな手法がみられることを明らかにした。 以上の史料調査は海外・国内の各機関(「現在までの進捗状況」欄参照)で行い、成果は広州の中山大学での国際学術会議で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究の目的に掲げた3点のうち(1)と(2)の解明を進めることを計画した。この計画に沿って海外ではフランス国立図書館、台湾国家図書館および故宮博物院、国内では立教大学、香川大学、天理大学、東京大学、東洋文庫の各機関にて調査を行った。その結果、具体的な手がかりを複数得ることができ、これによって今後の方向性も絞ることができた。 (1)に関しては、フランス国立図書館所蔵の『康熙帝遺詔』の調査が完結しただけでなく、同機関にて新たに陽明学とのつながりを追求するカギとなり得る史料『新鐫武経七書』も見出すことができた。(2)に関しては、明清時代のカトリック教理書の東アジアにおける流通状況を明らかにするために国内での所蔵の調査を進める過程で、明治日本における「宗教」をめぐる議論との関わりという新しい視角を発見することができた。 ただしさまざまな課題も見つかった。まず(2)に関して、代表者はこれまでもっぱら中国とヨーロッパの交流に視点を置いてきたため、戦国から明治にいたる日本キリスト教史および明治日本における「宗教」状況について、史料や先行研究をまだ十分把握できていない。この点については、3月末に中山大学で開催された西学をめぐる国際学術会議で発表を行った際に、海外と国内の研究者から多くのアドバイスがもたらされ、今後の課題として見直すことができた。 また今年度は史料の調査や先行研究の整理に重点を置き、とりわけ(2)に関しては調査の範囲が当初の計画よりも大幅に広がったため、多くの時間を割くこととなった。史料の読解および議論の構築という点では十分な結果を出すにいたらなかった。 以上の理由により、本年度の計画に照らしておおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的に掲げた(1)に関しては、2018年度に調査した『康熙帝遺詔』仏語訳および『新鐫武経七書』の読解を進める。その際、前者については翻訳者の在華イエズス会士ジェルビヨンによる報告、同時代の日本など東アジアで流通した『康熙帝遺詔』の版も調査し、後者については出版に携わった孫元化による西洋算術や火器に関する著作も調査する。 (2)に関しては明治日本で流通した明清時代キリスト教教理書を引き続き調査するとともに、これらの書物の流通に関わったパリ外国宣教会の宣教師の活動に関しても調査を進める。具体的には東京都に保存された公文書、石川音次郎『東京築地記憶録』など信徒による記録のほか、パリ外国宣教会の東アジアでの重要拠点となった香港に残る史料も対象とする。 さらにパリ外国宣教会の宣教師や、彼らと協力して明清キリスト教教理書の再版にあたった信徒の三島良忠らによる自著も調査する。彼らは古来の最大の論敵たる仏教のほか、新しく進出してきたプロテスタントなどキリスト教内のほかの教派に対抗するための論陣を張り、加えて当時強力であった「宗教」無用論に対しても激しく抗弁している。そうしたなかでカトリック、そして「宗教」の存在意義をめぐる彼らの論理も練り上げられていったものと思われる。こうした議論と、中国から渡った漢文教理書との関わりについて調査を行う。これは本研究の最終段階(3)明清時代中国と西洋の思想的相互作用の歴史的意義の解明に直接つながる論点になり得る。 以上の調査は海外ではフランス国立図書館、パリ外国宣教会文書館、香港大学図書館、国内では立教大学、東京大学史料編纂所、天理大学、東洋文庫、国立公文書館、東京都公文書館を中心に行う予定である。また成果については中国の商務印書館刊行『西学東漸研究』に寄稿するほか、7月にライデン大学で開催される国際学会ICAS 11にてパネルディスカッションを行う。
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Research Products
(5 results)