2019 Fiscal Year Annual Research Report
Intellectual interaction between early modern China and Europe
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18J00160
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
新居 洋子 立教大学, 文学部, 特別研究員(PD) (10757280)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 『康煕帝遺詔』西伝 / 天主教批判 / 儒教の再定義 / 西学と中国社会 / 典礼論争 / フランス東インド会社 / スペイン王立フィリピン会社 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に引き続き、研究の目的に掲げた3点のうち(1)在華イエズス会士による中国思想の翻訳の内容・特色、(2)中国における西学の翻訳・解釈・影響の解明に取り組んだ。 (1)に関しては、宣教師による『康煕帝遺詔』の翻訳をめぐる調査を継続し、初年度に発見した仏語訳のほか、ラテン語、伊語、独語への翻訳版にも範囲を広げた。その成果として、『遺詔』の翻訳が典礼論争との深い関わりのなかで展開され、またそれらの作成や西欧への伝播に、在華宣教師のみならずポンディシェリのフランス東インド会社や、広東のスペイン王立フィリピン会社のメンバー、自然誌学者ら多様な人々が関わったことが分かり、中国をめぐる情報網の広がりを示す事例といえる。 (2)に関しては、まず明代の儒者王啓元の『清署経談』を通して、キリスト教の作用について検討した。彼は士大夫間での天主教流行の風潮を厳しく批判するのみならず、儒教をもっとも優れた「天」の教えとし、来世への見通しまで含んだ「神道」として再定義した。次に西欧科学の作用に関しては、嘉慶期の学者で徐光啓の子孫の徐朝俊の著作を分析し、その明清時代に伝わった西欧科学の内容に図表を補い、歌訣の形式を利用するなどの工夫に、通俗化の意図がみられることが明らかとなった。また彼が西欧式の測量法を応用して割り出した中国各地の経緯度のデータは、清代後期の地方志に利用されており、西欧科学が実用的な知として中国社会に接続した事例といえる。 さらに明清時代の漢訳教理書で、明治日本でパリ外国宣教会宣教師や信徒により改訳され流通したものを分析し、キリシタン版や蘭学の翻訳経験、「幽冥界」思想、明治期における漢語と哲学のあり方などの観点から検討した。 なお研究を進めるにあたっては、台湾中央研究院、ライデン大学、岩手県立図書館、国立公文書館、東洋文庫、天理大学、東京大学、武蔵大学、立教大学を中心に史料調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度後半は、新型コロナウィルス感染症の世界的流行のため、予定していたフランス、香港での史料調査ができなかった。 しかしその一方で、『康煕帝遺詔』の西欧への伝播に関しては、いくつかの仏語訳版のほか、ラテン語やイタリア語への翻訳の存在も明らかにすることができ、当初の想定以上の広がりがあることが分かった。さらに徐朝俊についてはこれまでほとんど研究が無いが、その世界的に貴重な南北両天の星図を国立公文書館にて調査し、『高厚蒙求』の国内諸版本と台湾中央研究院所蔵本を比較するなど、その西学研究の全体像を再構築するのに必要な作業を進めることができた。 そのほか、中国語と英語での成果発表を比較的多く行うことができた。まずライデン大学で開催されたICAS 11に、パネルのオーガナイザーおよび発表者として参加し、コメンテーターのビルギット・トレムル・ヴェルナー氏や、発表者の木崎孝嘉・阿久根晋・王ブンロ(Wang Wenlu)の各氏と準備の段階から活発な意見交換を行い、研究交流のネットワークが形成された。また台湾中央研究院の祝平一氏の主催による明清時代の西学や天主教をめぐるワークショップに参加し、最先端の研究成果に触れるとともに、台湾やベルギー、スウェーデンなど世界各地の専門家から研究方法や史料について多くの助言を得ることができた。さらに初年度に、広州の中山大学にて開催されたワークショップにて、明治日本における明清時代漢訳教理書の改訳と流通に関する内容を発表したが、それをもとにした論文を、中国の商務印書館刊行『西学東漸研究』に寄稿した。 国内では2019年度の「研究成果」に挙げたもののほか、2020年度以降刊行予定の『世界哲学史』5、『論点・東洋史学』『漢学とは何か』『洋学史事典』に寄稿した。 以上の状況から、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2020年度は、これまでの研究でとくに重要と思われた史料の分析、およびその精密化に必要な史料の調査に集中する。 まず研究の目的(1)に関しては、『康煕帝遺詔』の各西欧語翻訳版の分析を進め、それぞれの翻訳意図や知識的背景を明らかにする。 (2)に関しては、王啓元および徐朝俊の著作の分析をさらに進めるとともに、王啓元以外の天主教批判者の言説を調査し、また徐朝俊の西学研究に大きな影響を与えたと思われる徐光啓および梅文鼎の学術についての分析に取り組む。 また明治日本にて改訳ののち流通した明清時代漢訳教理書に関しては、これらの教理書の明治日本での広がりと利用の実態について引き続き調査するほか、当時の日本において宗教と哲学をめぐる思潮のなかでいかなる改訳が加えられたのかを明らかにするため、これまでの調査で見つかった『天主実義』『耶ソ言行紀略』の和訳版に注目し、漢文原本との比較分析を行う。またその参考史料として、明清時代漢訳教理書の改訳や出版に深く関わったパリ外国宣教会宣教師マランやリギョール、信徒三島良忠らによる護教的著述の分析も進める。 なお現時点(2020年4月)ではまだ新型コロナウィルス感染症の終息の見通しが立っていないため、国内・海外での史料調査がどこまで可能か不透明であるが、もし可能になれば本来2019年度に予定していたフランス国立図書館での『新鐫武経七書』(王陽明の手批本を底本としており、受洗した官僚の孫元化の標題が付された)や、『康煕帝遺詔』仏訳版に関連する在華宣教師の手稿の調査、さらにパリ外国宣教会文書館での宣教師マランやエブラル関連史料の調査を行う。 以上の成果の発表については、台湾の学術誌への投稿を計画しているほか、ICAS 11でパネルを組んだメンバーとともに、国内の学術誌における特集企画を起草するため準備を進めている。
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Research Products
(14 results)