2018 Fiscal Year Annual Research Report
Quantifying the transmission dynamics of norovirus infection usning household transmission data
Project/Area Number |
18J00167
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松山 亮太 北海道大学, 医学研究院, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | transmissibility / 年齢構造 / 集団食中毒 / 状態空間モデル / 感染症発生動向 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,ノロウイルス感染症(NVI)の感染性と伝播能力の定量化である.とくに「家庭」という閉鎖環境に着目して家族構成員の症状と感染履歴の情報を利用し,①家庭内の年齢の異質性を加味した伝播能力,②不顕性感染者の感染性,③住環境を介した感染性の推定を実施する計画であった.2018年度は,まず上記①に関連する取組みとして,家庭内のノロウイルス様疾患(Noro-like illness: NLI)の二次感染リスク(Secondary Attack Risk: SAR)を明らかにした.嘔吐・下痢を主症状としてNLIの症候を定義し,患者が認められた132家庭から感染履歴情報を収集した.家庭内の276名の構成員のうち38名がNLIを発症しており,SARは13.8%と推定された.0歳から14歳の年齢グループでは,他の構成員へのSAR(58.1%)と他の構成員からのSAR(25.8%)ともに他の年齢グループと比較して高値を示した.これら若年層では嘔吐の症状を示した患者が他の年齢層と比較して有意に多く,嘔吐が二次感染を駆動する要因として機能していることが示唆された.次に,上記③に関連する取組みとして,環境リザーバーを介したノロウイルスの伝播率の推定を実施した.環境リザーバー中でのウイルス粒子の蓄積を考慮した数理モデルを構築し,集団感染データの解析をおこなった.解析には家庭内感染データの応用が困難であったため,オランダ・リーンプデで2004年に開催されたジャンボリーで発生したノロウイルス集団感染事例のデータを用いた.感染者の平均感染期間と1日あたりのウイルスの生存率の平均値は,それぞれ2.0(日)および0.82(/日)と推定された.直接伝播と環境からの伝播の伝播率に有意差は認めらなかった.環境リザーバーを介した伝播の全感染イベントへの貢献度は,全体で60.1%と推定された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように,当研究は3年間で①家庭内の年齢の異質性を加味した伝播能力,②不顕性感染者の感染性,③住環境を介した感染性の推定の3項目を実施する計画である.本年度はNVI確定診断情報のもと後向き疫学調査をおこなって家庭内感染データを収集する予定であったが,研究項目③の環境からの感染モデルをワーヘニンゲン大学動物科学部との共同研究として早期に実施することになったため,そちらに注力した.そのため,研究項目①についてはノロウイルスの確定情報がない症候群ベースの既存データを用いた解析となった.当項目については家庭内における感染ダイナミクスを捕捉する統計モデルの構築と推定を最終的な目標としているが,まずはその一歩手前の段階として,層別化された年齢グループごとの感染性とそれらの異質性を明らかにして論文化まで到達した(Journal of International Medical Research誌に採択).来年度以降にはダイナミクスそのものに焦点を当て,それを支配するパラメーターの推定にむけて理論的に妥当なモデルを構築し,当初の目的の達成を目指す.研究項目3ついては,そのほとんどをオランダ・ワーゲニンゲン大学の研究滞在の中で実施していた.当項目の数理モデルの構築は現地の協力研究者との議論の中で実施し,結果は国際誌への投稿が見込まれている.以上より,来年度は研究項目2に取組むことを前提に,おおむね順調であると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は「家庭内の年齢の異質性を加味した感染性」と「環境を介した感染性」の推定についての一定の成果を得た.次年度はこの2項目についてさらなる発展と進捗とを目指す.前者の課題についてはノロウイルス性である蓋然性の高い急性胃腸炎の家庭内感染データについて,層別化された年齢グループごとの二次感染リスクを推定したのみである.そこで家庭内感染の過程により深く焦点を当てて,感染動態を支配するパラメータである年齢層別の伝播率と感染期間とを推定するようモデルを構築し,観察データへの適合を実施する必要がある.後者の課題については,2004年のオランダにおける集団発生事例データを用いて環境リザーバからの伝播率を推定して論文原稿まで作成しているため,引き続き論文化作業を継続する.これまでの研究で環境リザーバへのウイルスの蓄積が感染者数,感染期間,ウイルスの生存率および感染イベントの期間の影響を大きく受けている可能性が示されたため,他の集団発生事例データの探索と解析を実施して,推定の妥当性の評価と検証作業を実施してゆくべきである. また今後,目的欄に記載した2つめの課題である「不顕性感染者の感染性」の推定に注力する.まずは家庭内の不顕性感染者の割合,顕性感染者による二次感染リスク,顕性感染者に対する不顕性感染者の相対的二次感染リスクをパラメータとする.上記の観察データを用い,各家庭におけるNVI伝播の過程を状態空間モデルにより再構築して,適切な事前分布の設定のもとベイズ推定によって各パラメータの事後分布を得る.解の安定性により識別性を評価しつつ,柔軟にモデルとパラメータの構成を改め,年齢による異質性やコミュニティからの感染を考慮するようモデルの拡張を目指す.これらモデル拡張とともに,感染リスクベースではなく時間情報を伴った伝播率と感染期間ベースでの推定についても検討を実施すべきである.
|