2018 Fiscal Year Annual Research Report
ホルモン応答性長鎖非コードRNA複合体によるがん増殖メカニズムの解明とその応用
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18J00252
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
水戸部 悠一 埼玉医科大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 長鎖非コードRNA / 乳がん |
Outline of Annual Research Achievements |
乳がんは女性において最も罹患数の多いがんであり、ホルモン受容体を発現するホルモン依存性乳がんと、発現しないホルモン非依存性乳がんに大別される。乳がんのうちホルモン依存性乳がんは7割程度を占め、特に女性ホルモンであるエストロゲンの脱制御がホルモン依存性がんの発症、進展に重要であるとされている。長鎖非コードRNAは200塩基以上の長さを有し、またタンパク質をコードしないRNAである。長鎖非コードRNAは、近年の研究によってがんを含む様々な生命現象に重要な役割を担っていることが明らかになってきている一方で、詳細な作用メカニズムに関して不明な点が多い。BClnc-Yは、エストロゲンによって誘導される長鎖非コードRNAとして同定した。乳がん細胞株においてsiRNAを用いて発現抑制(ノックダウン)すると細胞増殖が抑制され、細胞死が誘導されることを明らかにしている。さらにマウス腫瘍モデルにBClnc-Yに対するsiRNAを導入すると、乳がん腫瘍の増大も抑制することを明らかにしており、BClnc-Yが乳がんの進展に非常に重要な役割を担っており、また治療のターゲットになりうることが示唆される。しかしながらBClnc-Yがどのようにして細胞増殖、生存性に関わるかその作用メカニズムは明らかにはなっていない。またBClnc-Yのノックダウンは、乳がん細胞以外の卵巣がん細胞株の増殖も抑制することを明らかにしており、乳がんにおける作用メカニズムの解明とともに、BClnc-Yのがん普遍的な機能を明らかにすることを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
BClnc-Yのノックダウン下における遺伝子発現の変動を網羅的に調べる目的でマイクロアレイ解析を行なった。マイクロアレイに基づくパスウェイ解析を行ったところ、BClnc-Yのノックダウンは、細胞増殖関連経路、またエストロゲンシグナル経路に関わる遺伝子群の発現を優位に制御していることが示唆された。詳細な発現解析を行ったところ、BClnc-Yはエストロゲン受容体の発現そのものを制御していることが明らかとなった。 長鎖非コードRNAはタンパク質、DNA、RNAなど他の因子に結合することで機能することが知られており、BClnc-Yに結合する因子群を同定することが、BClnc-Yの機能を解明するのにあたり非常に重要である。RNA pull down法はビオチン 付加したBClnc-Y RNAをin vitroにて合成し、細胞溶出液と混合し、当該RNAとその複合体を溶出液中で再構成させ、結合するタンパク質群を同定する方法である。RNA pull down法によって得られたタンパク質群を、質量分析によって解析したところ、BClnc-Yは様々なタンパク質群と結合することが判明した。 BClnc-Yのノックダウンは、乳がん以外にも卵巣がん細胞株の細胞増殖を抑制することを明らかにしているが、マウス腫瘍モデルにおける卵巣がん腫瘍の増大に影響を与えるかは明らかでない。卵巣がん細胞株を免疫不全マウスに移植するマウス腫瘍モデルを樹立した。
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Strategy for Future Research Activity |
RNA pull down法により、BClnc-Yが結合するタンパク質群を多数同定しているが、一方でこれらのタンパク質群のうち、どのタンパク質が、BClnc-Yの機能に実際に関わっているかは未だ不明である。RNAアンチセンス精製法は、ビオチン付加した当該RNAのアンチセンスDNA プローブを用いて、生細胞内の当該RNA複合体を精製できる方法である。RNAアンチセンス精製法は、試験管内で合成当該RNAと細胞溶解液を混合し、RNA複合体を再構成させるRNA pull down法に比べ、より正確に生細胞内のRNA結合因子を同定することができるが、プローブの選定など条件検討が難しい。現在プローブの選定や反応温度、時間等の条件検討を行っている最中である。RNAアンチセンス法とRNA pull down法の量実験のデータを組み合わせ、より確実にBClnc-Yに結合する因子群を同定する。 乳がん細胞にて、BClnc-Yが細胞増殖関連遺伝子群の発現に影響を与えることを明らかにしたが、これら遺伝子群が卵巣がん細胞株にてもBClnc-Yによって同様に制御されるか測定する。 また卵巣がん細胞株を用いたマウス腫瘍モデルを構築したので、siRNAを用いて、乳がんと同様にBClnc-Yノックダウンが卵巣がん腫瘍の増大を抑制するか測定する。以上の実験を通じて、BClnc-Yの乳がんにおける作用メカニズムを解明するとともに、BClnc-Yのがんにおける普遍的な重要性を明らかにすることを目指す。
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