2018 Fiscal Year Annual Research Report
Revealing the nature of dark matter with the use of Subaru large spectroscopic survey and dynamical analysis for the Galactic dwarf satellites
Project/Area Number |
18J00277
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 航平 東京大学, 東京大学宇宙線研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 暗黒物質 / 銀河系矮小銀河 / すばる広視野多天体分光器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では、暗黒物質ハローの非球対称性と銀河系ハロー星などのコンタミネーションが与える暗黒物質ハロー構造決定への影響を同時に考慮した、新しい動力学解析モデルの構築を行い、そのモデルを実際の銀河系矮小銀河の力学データに適用した。 矮小銀河の中でも比較的データ量が豊富な明るい矮小銀河に対して構築した動力学解析モデルを適用した。この解析の結果を用いて、暗黒物質の間接的検出実験において重要な物理量となるJ-factor(暗黒物質密度分布の2乗を視線方向に対して積分した値)を各矮小銀河について計算し、先行研究との比較を行った。先行研究でのコンタミネーションの取り扱い方は我々の手法と異なり、動力学解析を行う前に観測データからコンタミの可能性があるサンプルを予め除去する方法を採用している。結果、J-factor値は本研究と先行研究とで大きな違いは見られないことがわかった。よって、データ量が豊富な矮小銀河についてはコンタミの取り扱いには大きく影響せずロバストに決めることができる。 上述の研究と同時に、模擬データを用いてPFSの観測性能を考慮した模擬観測を行い、PFSで期待できるデータ量や観測精度によって、矮小銀河暗黒物質ハロー構造の決定精度がどの程度向上するかを詳しく調査した。PFSの矮小銀河観測によってまず期待できることは観測量の大幅な増加である。そこで、本年度は単純に観測データが増えることによって矮小銀河暗黒物質ハロー構造がどの程度精度良く決定できるのかを調べた。その結果、PFSの観測によって現在の10倍データ量が増えると、その決定精度が20%向上することがわかった。この精度向上によって、中心部の暗黒物質密度プロファイルがよりロバストに決めることができ、暗黒物質モデルへの強い制限に繋がると期待できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
暗黒物質ハローの非球対称性とコンタミネーション星が与える暗黒物質ハロー構造決定への影響を同時に考慮した動力学解析モデルの構築と銀河系矮小銀河への適用は、当該研究において重要研究の1つであった。本年度中に解析モデルの完成及び銀河系矮小銀河の実際のデータに適用でき、その成果を挙げることができた事は、当該研究計画が順調に進んでいると評価できると考えている。 さらに今回の動力学解析によってJ-factor値を求めただけでなく、暗黒物質ハロー構造、特に中心部の暗黒物質密度プロファイルが矮小銀河によって異なることが明らかになった。この結果は、これまで全ての銀河系矮小銀河の暗黒物質密度プロファイルは中心で一定となるコア構造を持つと考えられてきたが、その結果とは大きく異なり暗黒物質密度プロファイルには多様性があることを示唆している。これは暗黒物質粒子モデルへの制限や宇宙の構造形成理論に重要なインプットを与える成果である。 以上の結果は、上述の2つの系統的不定性を正しく取り入れた事によって明らかになったと考えられる。したがって、当該研究で計画していた以上の進展があったと評価している。 一方で、模擬データを用いたPFSの観測性能を考慮した模擬観測と動力学解析による暗黒物質分布推定の研究においては、概ね計画通り研究が進んでいる。銀河系矮小銀河の1つである小熊座矮小銀河の測光データからPFSを用いた分光観測をシミュレーションすると、現在の10倍以上の観測データを取得できることが見込まれている。この結果の元で本研究の成果が得られたのは意義のあるものである。ただし小熊座矮小銀河1天体の結果のみであるので、それに限らずPFSサーベイのターゲットとなっている銀河系矮小銀河全てで同様の解析を行う必要がある。また、模擬データ生成のためのコードは現在も構築及び改良を行っている段階である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度では分光データの多い明るい銀河系矮小銀河に対して構築した動力学解析モデルを適用したが、今後はコンタミネーションの影響が大きいと考えられている超低輝度矮小銀河について同様の解析を行う予定である。しかし統計量が少なすぎる場合、結果として得られる暗黒物質分布の誤差が上述2つの系統的不定性よりも大きくなる可能性が高い。したがって、超低輝度矮小銀河の中でも比較的分光データ量が多い銀河(例えばかみのけ座矮小銀河や猟犬座矮小銀河など)を優先的に選択し、解析を行う予定である。これらの矮小銀河において系統的不定性を考慮した場合、得られる暗黒物質分布にどの程度大きな違いがあるのかを定量的に調べる。また暗黒物質プロファイルにも注目し、それが星形成史や暗黒物質の質量集積史と関係があるのかを調べる。 一方で模擬データ生成及びそれを用いた模擬観測においては、本年度は矮小銀河のメンバー星のみの模擬データを生成し解析を行ってきたが、次年度からはより現実的な観測に近づけるため、コンタミネーション星を加える。さらに観測する星の等級、金属量、表面重力、有効温度などを模擬データに追加していく予定である。またPFSだけでなく、近赤外広視野サーベイ宇宙望遠鏡による星の固有運動測定も考慮に入れた場合の暗黒物質密度プロファイルの決定精度についても議論する予定である。精密な固有運動測定によって星の3次元速度情報を得られるため、速度非等方性パラメータによる暗黒物質分布決定との不定性を解消することができる。これによって暗黒物質密度プロファイルの決定精度がさらに向上すると期待できる。これらの結果を踏まえて、チェレンコフ望遠鏡大型アレイによるガンマ線観測から、暗黒物質粒子の性質への制限がどの程度改善されるかを見積もる予定である。そして矮小銀河をターゲットとした暗黒物質探査に対して、その具体的な観測提案まで進めていきたい。
|
Research Products
(17 results)