2019 Fiscal Year Annual Research Report
Revealing the nature of dark matter with the use of Subaru large spectroscopic survey and dynamical analysis for the Galactic dwarf satellites
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18J00277
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 航平 東京大学, 東京大学宇宙線研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / 銀河系矮小銀河 / 冷たい暗黒物質理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
Cold dark matter (CDM) 理論は現代天文学の理論パラダイムである一方、非線形領域におけるいくつかの観測事実を再現できない問題を抱えている。その1つに「コア-カスプ問題」がある。CDM理論が予言するダークマター分布は中心部で密度が上昇するカスプ構造を持つが、矮小銀河の動力学解析から得られるダークマター分布は中心部で密度が一定になるコア構造を持つという矛盾である。しかし、観測データが不十分であること、解析モデルが球対称を仮定するなど簡素化されていることから、観測から得られるダークマター分布に大きな不定性が付随していることが問題視されている。これはダークマター粒子の間接的探査実験に必須であるJ-factor推定の不定性にも直結している。そこで現在ある最新の矮小銀河観測データと、これまで構築してきた非球対称動力学解析モデルを用いて、コア-カスプ問題の再検討を行った。その結果多くの矮小銀河はカスプ構造を持つことがわかり、この問題自体がなかったことを示唆した。さらに銀河ごとにダークマター密度の半径依存性が異なり、多様性があることを明らかにした。この結果を銀河形成シミュレーションと比較すると大まかに一致していた。つまり、この多様性は銀河形成史とダークマター分布に関連性があることを示唆している。また各銀河のJ-factor値を計算したところ、これまでの先行研究(Hayashi et al. 2016など)と1シグマエラーの範囲で大きな違いは見られなかった。これはダークマターの密度分布よりも、その大きさを決めるパラメータがJ-factorに寄与していることを示している。 一方で、次世代分光観測装置すばるPrime Focus Spectrograph (PFS)を考慮したダークマター分布推定の評価も行っている。その為の模擬データ生成を進めており、今後より現実的な検討を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
暗黒物質の起源の解明は現在の宇宙物理学および素粒子物理学の最も重要なテーマの1つとなっている。これまで様々な暗黒物質候補が提案されているが、その中でもCold dark Matter (CDM) 模型が大スケールの様々な宇宙観測から支持されている。一方で矮小銀河や小質量円盤銀河の動力学解析から、その中心部分における暗黒物質密度がCDM模型によって再現出来ない可能性があるという問題(コアーカスプ問題)が指摘され、長年の大きな問題となっている。 銀河系矮小銀河はバリオン量が少なくダークマターが支配的な系であるため、そのダークマター分布は暗黒物質模型の性質を直接的に反映していると期待されているため、この問題の決着は暗黒物質の起源に迫るため必要不可欠なステップであると考えられている。 本研究では、このコアーカスプ問題がこれまで行われてきた動力学解析モデルの不定性に起因している可能性に着目した。具体的には、これまでの研究は銀河系矮小銀河やダークマター分布が完全な球対称であるという仮定のもとに行っているが、この仮定が大きな系統的不定性となっていると考え、非球対称動力学解析モデルを用いた再解析を行った。その結果これまでの球対称動力学解析モデルでの結果と異なり、コアーカスプ問題は実際には存在せず、矮小銀河の中心密度プロファイルはCDM模型の予言と矛盾しないことを示した。これは暗黒物質の起源解明に向けた重要な結果である。また、他のダークマター理論模型、例えばSelf-interacting dark matterやultralight dark matter理論などは中心部にコア構造を作ると予言されるため、本研究の結果はこれらの理論にに強い制限を与えることができると期待できる。 以上のことから、当初の計画以上に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度では、非球対称動力学モデルを用いて中心部のダークマター分布が銀河系矮小銀河ごとに異なり、いくつかの銀河はカスプ構造を持つことが明らかになった。これはCDM理論の大きな問題の1つであるコアーカスプ問題がそもそも存在していないことを示唆している。 この結果をもとに、Self-interacting dark matter(SIDM)理論への制限を行う。SIDM理論は小質量円盤銀河で見られる回転曲線の多様性を再現することができ、CDM理論よりも優れていと主張する論文もある。しかし銀河系矮小銀河に対しては研究が十分に進んでおらず、上述のような多様性を再現できるのか調べる必要がある。 一方でダークマター分布決定の精度をより向上するためには、次世代分光観測装置すばるPrime Focus Spectrograph (PFS)が重要になる。本研究はPFSを考慮した銀河系矮小銀河ダークマター分布決定の評価も行う。模擬データを用いてPFSの観測性能を考慮した模擬観測を行い、PFSによって期待できるデータ量などによって、銀河系矮小銀河ダークマター分布決定がどの程度向上するのかを詳しく調査する。 前年度行った研究では、使用した模擬データは球対称分布を仮定した分布関数を用いて行っていた。一方で非球対称分布への制限に対してPFSでどこまで迫れるのかを徹底的に調べるのが重要であるため、この模擬データを生成する必要がある。 今後はこの模擬データの生成に取り組み、またコンタミネーションを含めた模擬データを作成し、より現実的な模擬観測を行う。このとき、すばるPFSだけでなく、すばるHSCやGaiaの情報を取り込んだ統計的解析も行う予定である。これらの結果を踏まえて、チェレンコフ望遠鏡大型アレイ(CTA)によるガンマ線観測から、暗黒物質粒子の性質への制限がどの程度改善されるかを見積もる。
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Research Products
(19 results)