2018 Fiscal Year Annual Research Report
希薄気体中における粘性摩擦の解析学および確率論を用いた研究
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18J00285
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
坂本 祥太 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 特性関数 / モーメント条件 / 希薄気体 / 運動論方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はKashidan-Pareschi(2006)やToscani(2010)で提唱された、微生物中の突然変異体の増大に関する運動論的モデルの微分方程式の数理解析を行った。Luria-Delbr\"{u}ck(1943)やLea-Coulson(1949)などはそれまで動植物など目に見える個体で確認されてきた自然選択が微生物中でも起きているということを提唱し、実験とモデルの比較によって正しさを示した。この発展はZheng(1999)にまとめられているが、個体数は離散な値をとるため、用いられている手法は離散な確率の値の漸化式の計算である。これに対し、Kashidan-PareschiやToscaniで用いられているモデルは、個体値があたかも連続に正の値をとるよう設定され、モーメントなどの量の時間変化が適当なテスト関数の差分の積分によって記述されるモデルである。このように、希薄な気体の状態を記述するボルツマン方程式などのように、方程式の弱形式に自然にテスト関数の差が表れることをもって運動論的モデルと呼ばれている。KPでは数値解析による解の近似、Tではモデルに対する解の存在、LCモデルの適当な意味での極限がLDモデルであることを証明した。ただし解空間が定義されておらず厳密な意味で解が構成されたとは言い難かった。一方、同様に運動論的であり確率測度解を考えることができる空間一様マクスウェル型のボルツマン方程式において、Cannone-Karch(2012)やMorimoto-Wang-Yang(2014)はモーメントを持つ確率測度に対応する特性関数の空間を新たに定義し、そこで解を構成した。方程式の構造の類似から、この新たな空間を用いてTで提唱された方程式の厳密な解を求めることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記実績で記述した研究内容はやや元の研究方針と異なっている。ここで扱った方程式が記述するモデルは生物学からのモデルであり、粘性摩擦における剛体の運動と直接の関係があるわけではない。しかし、確率論的に立てられたモデルに対して解析学の手法を用いて考察するという点において、このモデルは適切であったため研究を行った。この研究は、確率測度に関する微分方程式を確率論を用いて直接解くのではなく、特性関数という扱いやすいクラスの関数で表現しなおし、偏微分方程式論を用いて問題を解いており、研究課題にあるような運動論における確率論と解析学の利用の橋渡しを行っている。本来は並行して進行させようとした研究の一部であり、全体の研究そのものの進捗としては十分ではあるが、元の研究課題の対比から上記の区分とした。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、希薄気体の流れる向きと平行に設置された円筒の希薄気体中における運動を考える。特に円筒の運動方程式に解が存在するかどうか、終末速度への漸近挙動はどのようになるかを証明する。先行研究との違いは剛体の境界条件で、ここでは底面・側面両方で拡散反射を仮定する。先行研究では鏡面反射という、入射角から反射角が一意に特徴づけられる仮定の下であったため粒子の軌道が比較的考えやすいものであったが、拡散反射はあらゆる方向への粒子の反射を許すため粒子の軌道を追跡するのが困難となる。これを解消するために、粒子の挙動を偏微分方程式の解ではなく確率密度関数の級数として扱う。(n+1)番目の衝突に関する条件はn番目のそれのみによって定まるため、n番目の項と(n+1)番目の項に関して漸化式を立て、それらの輪を考えると任意の衝突回数を考えることができる。このように粒子の挙動を分解し、どのような衝突が剛体の漸近挙動に影響を与えやすい(またはほとんど関与しない)かを調べ、具体的な漸近オーダーを導出することを目標とする。可能であれば、剛体の速度に関する微分方程式の解の一意性についても考察する。先行研究によれば解の存在のみで一意性は判明していないが、存在する解の漸近挙動はすべて同じということは判明している。このため方程式の解の一意性を予想するのは自然と考えられる。具体的には、上述の粒子の衝突回数を追跡するテクニックを用い、先行研究では2回で打ち切っていた粒子の衝突回数による剛体の運動への影響をいくらでも大きい回数まで調べることによって行われる。 本年度は上記研究概要欄にあるような方程式の構造または物理的背景を共にするようなモデルの考察も並行して行う。
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Research Products
(7 results)