2019 Fiscal Year Annual Research Report
光合成能力の限界突破:律速要因の特定と新規フェノタイピング技術の開発
Project/Area Number |
18J00308
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
冨永 淳 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 光合成 / ルビスコ / モデル / ガス交換 / クチクラ / 葉内湿度 / リモートセンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
1. ルビスコ生合成シャペロンBSD2による光合成制御機構の発見 ルビスコの活性(Vcmax)は光合成の主な律速要因となっている。そこで、BSD2を高発現させ、ルビスコ含量を増加し、Vcmaxを高めようと試みた。その結果、BSD2高発現体のVcmaxは上昇し、バイオマスが増加した。驚くべきことに、ルビスコ含量は増加せず、CO2固定効率が上昇していた。BSD2が酸化不活性化したルビスコを還元活性化すること、BSD2高発現体で酸化ルビスコの割合が減少することから、BSD2は光合成の維持に働くと結論付けた。本研究はルビスコ改変に頼らない光合成改良の新たなアプローチを示した。 2. 光合成マッピング技術の開発 既存のガス交換測定は、1次元のガス交換モデルをもとにガス拡散や光合成活性に関するパラメーターの代表値が計算される。当モデルは均質な葉面を想定するが、葉の形態は空間的に不均一である。そこで、クロロフィル蛍光・赤外光イメージングをガス交換測定と組み合わせることで、光合成を葉面にマッピングする技術を開発した。その結果、定常状態で光合成の律速段階(CO2,光)は常に混在することが分かった。本技術は、葉の光合成と水分動態の関係解明やリモートセンシングによる光合成フェノタイピング技術開発に役立つ。 3. 葉内CO2濃度(Ci)直接測定によるガス交換モデルの再検討 ガス交換モデルをもとに計算されるCiは光合成パラメーター(Vcmax等)の算出に必要不可欠である。そこで、Ciを直接測定し、モデルを検証した。その結果、クチクラコンダクタンスによってCiが過大評価されていた。また、計算値と測定値のズレからクチクラコンダクタンスを非破壊測定する方法を開発した。また、Ci直接測定の結果、切除葉の内部湿度が80%以下にまで低下することが明らかとなった。これは、葉の水分動態における未知のメカニズムを示唆する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように、本年度は期待通りの研究成果が得られている。
|
Strategy for Future Research Activity |
派遣先のDavid Hansonラボ(University of New Mexico)において、光合成と同時に葉の水ポテンシャルおよび同位体分別を測定し、上述の葉内湿度低下のしくみを解明する。また、同ラボにて、環境ストレス条件下や非定常状態での光合成マッピングを行い、光合成律速の時空間的な挙動を明らかにする。広島大学において、BSD2高発現や発現抑制した個体の環境ストレス応答を解析し、リドックスを介したルビスコ活性制御の適応的意義やメカニズムの解明を進める。
|