2018 Fiscal Year Annual Research Report
Theoretical study of finite-time quantum control in open quantum systems
Project/Area Number |
18J00454
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
布能 謙 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 量子速度限界 / 量子熱力学 / 量子制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、有限時間で環境との相互作用にさらされている量子系を効率的に制御する手法(有限時間量子制御の手法)を明らかにすることである。この目的を達成するために、平成30年度では、主に2つの内容について研究を行った。 一つ目は、量子速度限界と呼ばれる、量子系を操作する時間の下限を与えるユニヴァーサルな不等式を量子開放系へと拡張したことである。この結果は、量子系を素早く操作するためには、どのようなプロトコルが必要かという問いに対して、重要な知見を与える。また、熱浴の影響によって、量子系の操作スピードを加速することが出来ることも理解できた。得られた結果は、量子速度限界、量子熱力学と量子制御といった異なる分野の思わぬ結びつきを示唆している。今回得られた結果を活用して、有限時間量子制御の手法を具体的に構築することを今後行っていきたいと考えている。今回得られた結果は、New Journal of Physics誌に掲載された。 二つ目は、超電導量子ビット系で構成された量子冷却機関に有限時間量子制御の手法を適用することで、操作速度を速くしつつ、効率を大きくすることが可能であることを見出したことである。この結果は、効率的に量子系を冷却する方法を与えるミニマルモデルとしてとらえることもでき、量子情報処理技術の進展に役立つことが期待される。また、従来の量子制御手法を熱浴と相互作用する系へと拡張するうえで、重要な知見を与えることが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一つ目の研究では、量子速度限界を量子開放系へと拡張し、操作速度と物理的に意味のある量である、エネルギー揺らぎや量子エントロピー生成を結び付けた。この結果は、量子開放系におけるスピードの限界がどのような物理的メカニズムによって定められているのかを探るうえで非常に重要である。導出した不等式に現れる量子エントロピー生成は、操作の熱力学的な非可逆度合を表していて、量子熱力学において最も重要な量である。そのため、系の詳細によらないエントロピー生成に対するユニヴァーサルなバウンドは、様々な応用例が考えられる。例えば、操作時間を短くしつつ、エントロピー生成を小さくするためには、どのような量子操作が必要かといった問いに対して、重要な知見が得られると予想される。そして、得られた知見を基にして、有限時間量子制御の手法へを具体的に構築することを今後行っていきたいと考えている。今回得られた結果は、New Journal of Physics誌に掲載された。 二つ目の研究では、有限時間量子制御の手法のひとつである、Counter-diabatic Driving(CD)による断熱過程のショートカットが量子開放系でどれぐらいうまく機能するのかを確認した。量子冷却機関を作るために、システムとして、超電導量子ビットを用い、それに熱浴として、二つのRLC共振器を結合させたモデルを用いた。さらに、超電導量子ビットに共平面導波路共振器を結合させ、古典的なマイクロ波でシステムをドライブすることで、CDを実装することを考えた。その結果、CDによる制御によって効率を保ちつつ、操作速度を速くできることがわかり、量子開放系でもCDが有効であることを発見した。さらに、対応する古典の冷却機関との違いについても解析し、CDによって制御された量子冷却機関との違いについて物理的な考察を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度では、Shortcuts to adiabaticity (STA)の手法が量子開放系でどれぐらい効率的に動作するかを、量子冷却機関のモデルを用いて、解 析計算、数値計算の両方で調べてきた。本年度は、得られた知見を基に、高速制御を行ったときの解析に着手する。特に、環境との相互作用に よる散逸を減らしつつ、非断熱的な励起を抑えられると予想しているが、この予想を数値的、解析的な手法を駆使して示す。 さらに、STAの手法を改良し、量子熱機関の熱効率・出力パワーを同時にできるだけ最大化するための制御手法を考える。前年度導出した、量 子開放系の量子速度限界を用いて、この不等式が与える、操作時間に関するバウンドをできるだけタイトにするための条件を求める。この条件 をヒントにして、必要な量子制御の仕方を模索する
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Research Products
(4 results)