2019 Fiscal Year Annual Research Report
魚類病害虫ハダムシの分類学的問題解決と寄生動態解明による防除・予防法の開発
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18J00466
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
新田 理人 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(SPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 単生虫類 / 寄生虫 / ハダムシ / DNAバーコーディング / 分類 / 水族寄生虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
「ハダムシ」は主に魚類の体表に寄生する単生虫類の総称で,養殖場・水族館等において深刻な魚病被害(ハダムシ症)を引き起こす.ハダムシによる被害は1960年代から生じておりその寄生動態・防除の研究が進んでいるが、いまだ根本的な解決に至っていない.この要因の一つとしてハダムシの種同定が困難であることが挙げられ,どのようなハダムシが何に寄生しているのかという基礎情報の貧弱さが対策研究の足かせとなっている.本研究の目的は,野生海水魚の網羅的調査を並行して行うことで日本に生息する「ハダムシ」を整理し,DNAバーコーディングを用いた同定システムの構築と,ハダムシの分布・寄生動態を解明することである. 本年度は西日本,北海道及び東日本太平洋岸の魚類寄生虫相調査を行った.現在までに寄生虫検査を行った野生海産魚類は102科283種に及ぶ.これら宿主魚類のうち55種26科の魚類から約50種のハダムシ科単生虫類が採集されている.これらの種のほとんどは形態的に同定されており,約70%が未記載種と判断された.またDNAバーコーディングシステムの構築に向けた遺伝子の解析を進めている.このデータを用い分子系統解析を行った結果,魚病被害の原因となるハダムシ類は複数の種群に分かれることが明らかとなり,それぞれ新たな共有派生形質が確認された.また,日本産ハダムシ類の多様性に地理的傾向があり,分散障壁の存在が示唆された. 本年度は5報の研究論文を公刊し,国内学会における研究発表を4回行った.また,多くの未記載種について現在記載作業を進めている.本年度の成果の一部として,コモンサカタザメに寄生するハダムシ類の新種記載論文を公刊した.また,国内のハダムシ類の分類学的整理のため,博物館所蔵標本の観察と整理を行い,その成果の一部をハダムシ類Encotyllabeの分類学的再検討として学会発表を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は昨年度に引き続き西日本産海産魚類に寄生するハダムシ属単生虫類相の調査を行い,さらに北海道及び東日本太平洋岸の魚類寄生虫相調査を行った.現在までに採集・寄生虫検査を行った野生海産魚類は,102科283種に及ぶ.これは海産魚調査種数目標の2倍を超えている.これら宿主魚類のうち,55種26科の魚類から約50種のハダムシ科単生虫類が採集されている.これらの種のほとんどは形態的に同定されており,約70%が未記載種と判断された.またDNAバーコーディングシステムの構築に向けた遺伝子解析を進め,必要とされる核配列の大部分および,ミトコンドリア配列の一部の解析が終了している.また,野生海産魚の寄生虫調査では多くの他の寄生虫分類群も数多く得られるため,生物学上また産業上重要な寄生虫に関しても各分類群の専門家の協力のもと研究を進めている.以上を鑑み,本年度も順調に研究計画を遂行できていると判断した. 得られたハダムシ類に関して,DNAバーコーディングシステムの構築に向けた遺伝子の解析と並行し分子系統解析を行った.結果,日本において魚病被害の原因となるハダムシ類(特にBenedenia属)は複数の種群に分かれることが明らかとなり,また形態的にも共有派生形質の存在が確認された.現在分類学的な問題解決に向けた検討を進めている.また,日本産ハダムシ類の地理的分布に傾向があり、宿主に依存しないハダムシ類の分散障壁の存在が示唆された.さらに,ハダムシ類が利用する宿主との共進化,宿主転換に関係する宿主側の生態要因の解明,およびハダムシ類の季節的消長に関する解析を野生海水魚の網羅的調査で得たデータから進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
過去に国内から記録されているハダムシ類のうち昨年度までに再発見できていない種があり,9月までをめどに東北地方太平洋側,関東地方,富山湾を中心に調査を行う.また,琉球列島におけるトカラギャップがハダムシ類分散の障壁になっていることが示唆された.沖縄島から鹿児島にかけて多産し産業上重要であるハタ類には複数種のハダムシ類が寄生することが判明しており,10月までに追加調査を行い分布および寄生動態の決定要因を解明する. 本年度は申請時において東南アジアやオーストラリアの研究機関との共同研究および博物館調査が計画されていたが,新型コロナウイルスの影響により現地での調査が困難となった.そこで現地研究機関と連絡を取り,ハダムシ標本および登録標本を可能なものは送付,または画像に基づき形態・遺伝子解析を行うこととした.東南アジアで魚病の原因となる種と日本産種の関連を明らかにし,将来の水温上昇に伴う分布拡大および魚病発生リスクを推定する. 瀬戸内海において寄生動態の定点調査を2018年度から行っており,本年度は蓄積されたデータをも基に解析を行う.特にタイ科魚類とキジハタに寄生するハダムシ類の季節性を詳細に記載する.また,季節性・分布・分散のデータに基づき生態学的な解析を行うことで,野生魚と養殖魚に寄生するハダムシの関係を明確にし,ハダムシ病の予防対策を提案する. 西日本で採集された多くの種で分子情報が得られ,系統的位置の推定が完了し,複数種群の存在が確認された.これらの種群に新属の提案を含めた分類学的整理を行い順次報告する.またそれまでに得られたハダムシのうち追加標本が必要な種がいくつか存在し,採集を試みる.これまでに得られた標本データ・DNA情報を基に,日本産ハダムシ形態同定の手引きの作成とDNAバーコーディングシステムの構築,ハダムシ種間の系統関係の推定や,宿主利用・転換の歴史を解明,報告する.
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Research Products
(10 results)