2018 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本児童文学におけるフランス文化の受容――『赤い鳥』以前をめぐって
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18J00516
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
渡辺 貴規子 千葉大学, 教育学部, 特別研究員(PD) (50829075)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 近代日本児童文学 / フランス文化 / フランス文学 / 翻訳 / 再話 / ジャンヌ・ダルク |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、1918年以前に刊行された児童雑誌、児童読者向け叢書におけるフランス関係の記事・単行本の調査、明治時代の児童文学におけるジャンヌ・ダルクの表象に関する研究を行った。研究成果について年度内に国内で学会発表を行い、1本の論文を公表し、平成31年度に国外での学会発表が予定される。 まず、『少年世界』、『少年界』、『少女界』、『少女世界』等の児童雑誌、「世界お伽噺」、「世界歴史譚」等の児童読者向け叢書を調査した。誌名に「少年」を冠する雑誌には、「少女」を冠する雑誌よりフランス関係の記事が多く、第一次世界大戦以降に当該記事が増加する傾向も把握される。叢書で紹介されたフランス文学作品には、フランス語からの直訳だけでなく、英訳・独訳が介された作品があることも判明した。 次に、明治時代に出版されたジャンヌ・ダルクに関する文献は現段階で58種確認され、その内11種は児童読者を対象とした。特に作楽戸痴鶯『西洋英傑伝』(1869年)は、ジャンヌを初めて日本に紹介した文献として重要であり、原典を特定し、翻訳と比較した。原典はマーガレット・フレイザー・タイトラーのTales of the Great and Brave全二巻(1838-1843)であり、翻訳ではジャンヌの勇敢さが際立たせられ、母のような慈愛で人々を守る姿も付加された。明治20年代後半以降のジャンヌの表象には「少年」読者向けと「少女」読者向けの言説とに分離する傾向がある。以上の研究成果を日本児童文学学会で発表し、『千葉大学教育学部研究紀要』に論文を発表した。2019年夏にストックホルムで開催される国際児童文学学会でも発表を行う予定である。 初期近代日本児童文学におけるフランス文化受容の様相の把握を目指す本研究課題にとり、以上の調査・研究は重要であり、日本児童文学に対するフランス文化の影響を明らかにする上で貢献すると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大阪府立中央図書館国際児童文学館、日本近代文学館、国立国会図書館、東京都立多摩図書館等の専門資料所蔵館において、児童雑誌と児童読者向け叢書を調査した結果、フランス文学、フランス文化関連の記事・単行本の発見、収集、分析は進んでおり、ジャンヌ・ダルクの表象の研究に関しても、その表象と言説が変遷していく経緯と背景について明らかにされつつある。上記の研究成果については、年度中に国内学会での口頭発表、及び論文の公表を行うことができ、2019年8月に開催される国際学会での口頭発表に関しても、申し込みが受理され、当初の研究計画通りに研究成果発表が行われる予定である。 児童雑誌の調査に関しては、『少年』、『日本少年』、『少女』等、目下調査中の雑誌も数種あるが、これらについては平成31年度中に調査を完成させる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、次の三点を具体的な課題とする。第一に、国際児童文学学会で、明治20年代後半以降の「少年」「少女」読者向けのジャンヌ・ダルクの表象に関し、より詳細な分析を加えた上で、口頭発表を行う。第二に、『少年』(時事新報社、1903年創刊)、『日本少年』(実業之日本社、1905年創刊)、『少女』(時事新報社、1912年創刊)等、調査途上にある児童雑誌に関する調査と、記事内容の分析を行う。児童雑誌に掲載されたフランス文化関連の記事に関しては、2019年11月に開催される日本児童文学学会第58回研究大会において、研究発表を行う予定である。第三に、児童雑誌や児童読者向け叢書の中で紹介されたフランス文学作品の翻訳の中から、重要度がとくに高いと判断される作品の翻訳を選択し、原典を特定した上で、その翻訳様相に関する研究を遂行する。
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Research Products
(2 results)