2019 Fiscal Year Annual Research Report
ES細胞における染色体構造の安定性を担保するヘテロクロマチン形成機構
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18J00586
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
前田 亮 大阪大学, 生命機能研究科, 特別研究員(PD) (90814575)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | HP1 / H3K9メチル化 / ES細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、ES細胞を用いて、HP1の完全欠損によるH3K9メチル化(トリメチル化およびジメチル化)の変化の解析をおこない、HP1によるレトロトランスポゾン抑制機構の解明を試みた。 はじめに、HP1を完全欠損した細胞における、ヒストン修飾の変化を調べたところ、H3K9メチル化の顕著な減少がみられた。また、H3K9メチル化修飾酵素であるSuv39h1/2、G9a/GLPやEsetのタンパク質の減少もみられた。このことから、HP1はH3K9メチル化修飾酵素の安定性に寄与し、H3K9メチル化を維持していることが考えられた。次に、レトロトランスポゾン領域における、ヒストン修飾状態や発現の変動を調べた。HP1を完全に欠損させた細胞では、これまでの結果と同様に、H3K9メチル化の減少がみられた。その一方で、遺伝子発現の活性化マークであるH3K4メチル化の増加がみられ、相関して大多数のレトロトランスポゾンの大幅な発現上昇がみられた。HP1の欠損後、ES細胞は染色体の分配異常を引き起こし、死に至ることが明らかになった。これらのことから、HP1は多くのレトロトランスポゾンの発現抑制に不可欠な因子であることが明らかとなった。したがって、ES細胞において、HP1はH3K9メチル化修飾酵素を安定化し、H3K9メチル化をレトロトランスポゾン上に維持させることで、その発現を抑制することが明らかとなった。以上の結果は、現在論文執筆中であり、来年度には国際誌に発表できると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、「ES細胞における不死性と染色体の安定性の両立」をテーマに、生化学的手法およびバイオインフォマティクス手法を駆使して研究を進展することができた。前年度は、染色体の安定性を維持するタンパク質群に焦点をあて、HP1との関係を明らかにしたが、今年度は、HP1の中核の機能であるH3K9メチル化の制御に着目した。その結果、HP1がH3K9メチル化酵素を安定化し、遺伝子の発現抑制に寄与するといった思いがけない機能を発見することができた。したがって、研究は概ね順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、1) HP1がどのようにH3K9メチル化修飾酵素を安定化しているのか、2) HP1によるH3K9メチル化制御が、ES細胞における染色体の安定性維持にどのような役割を持つのか、を明らかにする。 1) HP1はH3K9メチル化酵素をタンパク質レベルで安定化していることから、HP1がH3K9メチル化酵素をクロマチンにリクルートすることで、それらを分解から守ることを仮説立てた。おもにウエスタンブロッティング法や画像解析などの生化学的手法を用いて、上記の仮説を検証する。 2) HP1を完全欠損すると、レトロトランスポゾンの大幅な発現上昇がみられ、ES細胞は染色体分配に異常が生じ死に至る。ES細胞を細胞死に導く遺伝子を特定する。HP1欠損細胞のRNA-seqデータはすでに取得済みであり、大いに発現上昇する遺伝子のノックアウト細胞を作製する。その細胞を用いてHP1をさらに欠損させることで、HP1の欠損によりどのような遺伝子が働き、ES細胞の染色体の安定性が維持できなくなるのかを明らかにする。
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Research Products
(2 results)