2019 Fiscal Year Annual Research Report
人間環境の批評についての理論構築――居住者・観光者の環境美学――
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18J00618
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
青田 麻未 成城大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 環境美学 / 日常美学 / 観光 / 美的経験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、より十全に人間環境における批評の様相を解明することを目的とするものである。そのために①人間環境固有の美的経験の基礎的構造を明確にした上で、②個々の立場からの美的経験と、それに基づく美的判断が規範性を持つための条件を提示する。さらにそのようにして得られた理論を、③具体的な実践例を参照することで検証・洗練するものである。 今年度は、②の研究を進めた。観光者と居住者という二つの立場を取り上げ、それぞれどのように人間環境を美的に経験しているのかを、「フレーム」という概念を軸に明らかにした。フレームとは、どこまでも広がり、また多様な要素を包摂する環境のうち、美的経験のために特に注目すべき範囲を選択するために必要なものである。本研究では、まず観光者について、事前の計画・観光中の経験・事後の振り返りという三段階を通じて環境のフレーミングを行っていることを明らかにした。次に居住者について、居住環境内の要素が一部破壊されたり、あるいは未来の居住環境のありかたについて計画をもったりするとき、現在と過去や未来を重ね合わせるフレームを構築することを明らかにした。 以上の研究から、観光者と居住者は、たとえ同じ街にいたとしても、それぞれのフレームの構築方法の違いから、全く別の点に注目した異なる質を持つ美的経験をするということが導き出せる。ゆえに、ある人間環境の美的特徴をより十全に把握するためには、さまざまな異なる立場の人々の美的経験を考慮に入れる必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、①の研究で捉え損ねた点については、本年度に②の研究を進めるなかで遡及的に議論を展開することができた。また研究の成果についても、学会発表や論文投稿など、予定通りに進行している。2020年1月から2ヶ月のあいだヘルシンキ大学に客員研究員として滞在することも叶い、日常美学の第一人者のひとりであるアルト・ハアパラ教授との意見交換を交え、現在今年度の成果を英語論文として発表するための準備に入ることができている。 以上の理由から、研究の進捗はおおむね順調なものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる令和2年度は、③実践例を参照することで理論を検証する作業を行う予定である。しかし、当初実践例として扱う予定であった地域芸術祭について、新型コロナウイルスの流行が鎮静化するまでは十分な実地調査を行えない可能性がある。しかしその場合にも、既に開催された地域芸術祭についてのアーカイヴを利用しつつ、できる限り予定通りの作業を行えるように工夫をする。
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Research Products
(7 results)