2019 Fiscal Year Annual Research Report
日本におけるトラウマとモダニティ:戦争と労働災害をめぐる経験・解釈・補償制度
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18J00642
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中村 江里 慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | トラウマ / モダニティ / 戦争神経症 / アジア・太平洋戦争 / 外傷性神経症 / 労働災害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の二つの課題(A)総力戦とモダニティ:戦争神経症を中心とした戦時精神医療の国際比較、(B)トラウマとモダニティ:戦争神経症と労働災害の比較のうち、課題(B)で分析対象とする予定であった資料群が、センシティブ情報を多く含むため、公開に至るまでにはまだ相当程度の時間を要することが判明した。そのため、2019年度はこれまで収集した産業精神衛生や労働災害と外傷性神経症に関する医学論文を読み進めることに集中した。 一方、課題(A)に関しては順調に進展した。2018年度に電子化を行った未公刊資料の分析を進めた。その成果として、①心を病んだ兵士たちを家族や地域社会はどのように受け入れたのか、②軍事精神医療アーカイブズの保存・公開・現状、③戦争神経症の解釈や診断プロセスにおいて、患者の階級・人種・ジェンダーが及ぼした影響について論文にまとめた。 また、2018年度の研究の中で、医療化されなかったものの戦後なんらかの精神的失調を抱えていた人々の状況を明らかにする手立てとして、当事者や家族・医療従事者等の周囲の人々への聞き取りが重要であるという着想を得たが、2019年度は戦争体験者2名、家族3名、医療従事者2名へのインタビューを行うことができた。 2019年度も日本における軍事精神医療と欧米諸国の事例との比較について海外の研究コミュニティとの交流を深め、ドイツのHanse-Wissenschaftskollegを拠点として、20世紀前半の戦争と精神医療に関する共同研究プロジェクトに参加した。研究成果のアウトリーチ活動も積極的に行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題(B)に関しては資料へのアクセス制限のためにあまり進展がなかったが、課題(A)に関しては予想以上に研究が進展し、研究の過程で新たに取り組むべき課題も発見できた。研究成果の国際的発信と社会的発信も積極的に行うことができている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、新型コロナウイルスの影響で国内外での資料収集や学会参加のための出張が大幅に制限されることが予測される。そのため、これまで収集した資料に基づいて論文の執筆に多くの時間を割き、今年度執筆した論文に関しても今後さらに発展させて、海外の学術誌への投稿につなげていきたい。
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