2018 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属含有エレクトライドを用いた非担持型触媒の開発
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18J00745
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
魯 楊帆 東京工業大学, 元素戦略研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | エレクトライド / アンモニア合成触媒 / 選択的水素化反応触媒 / モット絶縁体 / ナノ化 |
Outline of Annual Research Achievements |
エレクトライドは周期的な空隙にアニオン電子を有し、高い触媒活性を示すことから基礎・応用研究の双方で注目を集めている。我々は本年度において、新エレクトライドの探索、物性解明及び応用研究において積極的な貢献を行った。 我々が新たに報告した新エレクトライドにa-Yb5Sb3とb-Yb5Sb3が含まれる。これらはMn5Si3型及びb-Yb5Sb3型構造を有し、Yb6 octahedraとYb4 tetrahedraに囲まれる周期的な空隙を有する。我々はDFT計算や物性測定により、空隙にアニオン電子が強く局在していることを見出した。この発見は無機化合物におけるアニオン電子の寄与の重要性を改めて示したものであり、長らく謎だったAe5Pn3(Ae:アルカリ土類、Pn:ニクタイド)型化合物における絶縁性を解明する鍵になると期待される。 新エレクトライドの探索と同時に我々は既存のエレクトライドの表面積の向上を試みた。Y5Si3とLaCu0.67Si1.33は以前に我々が報告したエレクトライドであり、それぞれアンモニア合成、ニトロベンゼンの選択的水素化に良好な触媒活性・選択性を示す。しかし、何れの物質も表面積は1~2m2/gであり、既存の酸化物やカーボンをベースにした触媒の1/10から1/100程度しかなかった。この問題を解決するため、我々はアーク蒸発法を採用し、既存のエレクトライドをナノ化することに世界で初めて成功した。得られたナノ粒子はXRDやXPS、TEM観察によって清浄な表面を維持できていることが確認でき、ナノ化により、触媒活性の劇的な向上(3~60倍)が認められた。 以上の成果はエレクトライドの本質的な理解を深めるのみならず触媒応用への新たな可能性を拓くものである。よって、我々の研究計画は期待通り進展していると評価できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、我々は新エレクトライドの発見とナノ化を重要な研究目標に設定し、その問題解決のため研究を行った。その結果、我々は新エレクトライドの発見とエレクトライドのナノ化という大きな目標を達成できた。 成果の1つがs軌道性を有するMott絶縁体の実現である。通常Mott絶縁体は有機物を除くと3d遷移金属を含む物質にしばしば見られ、高温超伝導や巨大磁気抵抗などの特異な物性を発現することが知られていた。我々が発見した我々はa-Yb5Sb3やab-Yb5Sb3ではその電子状態がd軌道のみならず、エレクトライド電子(s軌道性)においても実現することを示したものである。この成果は長年解明されていなかったBa5Sb3等の物性を理解する上で必要不可欠であり、無機材料におけるより広範な理解促成や新エレクトライドの材料設計に貢献するものである。 また、応用研究の成果として、我々は世界で初めてエレクトライドのナノ化に成功した。既存のエレクトライドとしてY5Si3やLaCu0.67Si1.33が知られており、アンモニア合成や選択的水素化に有用であるが、これらの材料はアーク融解法を用いるため、伝統的な触媒(酸化物等)と比べて表面積が極めて低い問題点があった。そこで我々はアーク蒸発法を用いてY5Si3とLaCu0.67Si1.33のナノ粒子合成試みた。本方法では、溶媒や還元剤は必要ではなく、清浄な環境下で触媒を合成できる点が強みである。我々はAr/H2環境下で母材となるY-Si合金とLa-Cu-Si合金を蒸発させ、適切な元素分圧下で気相反応させることでY5Si3とLaCu0.67Si1.33のナノ粒子合成に成功した。得られた粒子の表面積は先行研究のおよそ50倍であり、触媒活性も3~60倍と大きく向上した。 上記の成果は本年度の研究目標を十分に満足するものであり、研究計画が順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、エレクトライド触媒は主にアンモニア合成や水素化反応等に用いられているものの、その他の化学反応への適用はほとんど検討されてこなかった。従って、今後は新しいエレクトライドの探索を通し、エレクトライド触媒をさらに広範な化学反応に適用することを研究目標とする。具体的にはエレクトライドを用いた鈴木カップリング反応の実現を目指す。 鈴木カップリング反応はハロゲン化アリールと有機ホウ素化合物をクロスカップリングさせ様々な芳香族化合物を得る重要な化学反応の1つである。鈴木カップリングにおいてはPdの均一系触媒が必要であり、元素戦略の観点から不均一系触媒において鈴木カップリングを実現する触媒の開発が強く望まれている。我々は予備実験においてY3Pd2がPdを内包する新エレクトライド候補であり、鈴木カップリングを高効率で実現する不均一系触媒であることを見出している。そこで本年度はY3Pd2における物性解明・触媒活性の最適化に重点を置く。 具体的な研究手法は(1)DFT計算を用いた電子構造の解明(2)極低温の物性測定を通した電子構造の解明(3)触媒活性の最適化(4)DFT計算を用いた反応経路の解明の4部分に分けられる。まず、最も重要な点としてY3Pd2の電子構造の基本的な理解が不可欠である。特にフェルミ準位を支配する軌道はY3Pd2の基礎物性のみならず、触媒活性にも大きく影響するためDFT計算(1)や極低温の物性測定(2)が不可欠である。Y3P2dの物性を明らかにしたのち、その触媒活性の最適化に移り(3)、なぜY3Pd2が鈴木カップリングに有用なのかを解明し、今後の材料設計の指針を確立する。その際、DFT計算を通した反応経路を明らかにすることを重視する(4)。
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Research Products
(11 results)
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[Journal Article] Photo-induced semimetallic states realised in electron-hole coupled insulators2018
Author(s)
Kozo Okazaki, Yu Ogawa, Takeshi Suzuki, Takashi Yamamoto, Takashi Someya, Shoya Michimae, Mari Watanabe, Yangfan Lu, Minoru Nohara, Hidenori Takagi, Naoyuki Katayama, Hiroshi Sawa, Masami Fujisawa, Teruto Kanai, Nobuhisa Ishii, Jiro Itatani, Takashi Mizokawa, Shik Shin
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 9
Pages: 4322~4328
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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