2018 Fiscal Year Annual Research Report
Development of individual-based tracking of crop damaging animals in order to estimate their behavioral characteristics
Project/Area Number |
18J00774
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
原口 岳 総合地球環境学研究所, 研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 安定同位体分析 / 同位体分別 / ニホンジカ / 生態系管理 / 農業被害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、農作物被害に関与する獣類の糞の分析から、個体毎の生態を解明し、どの個体が、どこで、どれくらい農作物を加害しているのかを可視化する手法を開発するために、ニホンジカ(以下シカ)を研究対象としている。そのために、DNAと安定同位体分析を組み合わせて、シカの個体の属性・行動圏・食性の3つを明らかにすることをゴールとしている。シカの生態を明らかにするうえで重要な、これら3項目の情報のうち、2018年度は主に食性の解明に取り組んだ。 糞の安定同位体比がエサの同位体組成を反映するかを確かめるために、採餌実験試料の分析と、野外パターンの検証という2方向から研究をおこなった。その結果、採餌実験から、特に糞の窒素安定同位体比は、シカによる農作物の摂食を示す指標としての利用可能性が高いことを立証した。一方、炭素および酸素の安定同位体分析に関しては、植物由来の炭素であることが明らかになっている画分を抽出して、分析をおこなう必要があることが示唆された。抽出成分の酸素同位体分析においては、主に古気候学の分野において確立された手法があることから、当該分野の専門家より抽出プロトコルを学び、必要な機器類を整備した。 また、調査地の北摂地域において、約60地点で糞試料を収集するとともに、昨年度までに収集していた糞試料の窒素安定同位体比の分析をおこなった。その結果、収集地点周辺の農地の面積率と糞の窒素安定同位体比には正の相関が観測された。この結果は、野外において実際に、農作物の利用可能性と糞の窒素同位体比の高さに関係があったことを示している。 以上のように、2018年度は主に食性指標としての窒素安定同位体比の利用可能性の立証に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の主な進捗は以下の通りである。まず、今後の分析に供するための野外シカ糞試料の収集について、分析上好適な状態の充分量の試料を収集することができた。また、収集済みの試料の炭素窒素安定同位体分析については、計画に沿っておこなうことが出来たため、年度前半に学会において研究成果を発表することができ、関連研究者から論文執筆を求められるなど、好評を得た。 いっぽうで、糞に含まれる酸素の同位体の分析に関しては課題が見出されたため、手法の改善を図った。古気候分析を専門とする研究者に協力をいただいて、当該の世界で年輪の酸素同位体分析のために標準的におこなわれているように、植物から繊維質 (セルロース) のみを抽出して分析に供する手法を学んだ。実際に分析に供するのは材ではなく、もともと葉などの軟組織に由来していることから抽出条件に多少の変更が必要であると考えられたものの、必要な実験器具を準備し、抽出の手順について習得する事が出来た。 最後に、DNA分析に関して、手許に準備できる設備で研究を遂行することが困難であったことから、近隣の大学・研究機関に相談して、京都大学農学研究科の森林生物研究室のもとでDNA分析のために必要な設備を利用させていただけることになった。併せて、植物のミトコンドリアDNAによる種同定や、マイクロサテライト領域の読み取りによる個体識別について、実験手法の細部に関してアドバイスいただける体制のもとで研究を進めることとなった。 以上のことから、特別研究員奨励費を用いて取り組む課題について、全体としては順調に進捗していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度より、科研費 (若手研究); 19K16238のもとで取り組む研究課題が採択された。また、基盤研究(C); 19K06133の分担研究者として参画することとなった。前者の若手研究では、過去捕獲されたシカの炭素・窒素・酸素安定同位体比を近年の捕獲個体と比較する計画である。この研究ではシカの糞ではなくシカ自身の同位体分析をおこなうことから、各種同位体の変動に関する不確実性が少ない測定値が得られるばかりでなく、長期的なシカの採食履歴を得ることができる。また、捕獲個体の直腸から直接糞を得られるため、糞が一定期間野外に放置されることが同位体比の及ぼす影響を排除した糞と、シカ自身の同位体比を比較できる。以上のことから、奨励費のもとで遂行する課題と、若手研究費のもとで遂行する課題の連携により、双方の研究の意義を一層高められる。また、基盤研究(C)では、土壌動物の炭素窒素安定同位体分析を担当する。奨励費・若手研究で取り組む課題・基盤研究で分担する分析において、同一の機器 (EA-IRMS, TC/EA-IRMS) を使用することから、機器利用時間を集約して効率的に分析を進めることが出来る。 また、進捗状況の理由で言及したように、酸素安定同位体の分析についてはすでに分析プロトコル改善に着手しており、DNAの分析については手法を指導していただきながら、必要な設備を利用させていただける体制を整えているため、現在の環境下で引き続き研究を遂行していけるものと考える。 最後に、野外試料の収集について、当初標高傾度に沿ったトランセクトを設定し、糞中のセルロースの酸素同位体比が標高傾度に沿った変動を示すことを検証し、酸素同位体地図を作成することを計画していた。しかし、標高傾度に沿ったサンプリングに適したルートの確保が困難であったことから、シカの分布域の多地点における面的な採集に変更して研究を進めている。
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