2018 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of the new mechanism for preventing reactive oxygen species production depending on chloroplastic ATP synthase in land plants
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18J00852
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高木 大輔 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(PD) (80825654)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 光合成 / リン酸 / ATPアーゼ / Rubisco / イネ / 植物栄養学 / 植物生理学 / 光傷害 |
Outline of Annual Research Achievements |
<研究目的>本年度は、「葉緑体局在型ATPアーゼにおけるH+流出活性抑制の分子メカニズムの解明」を目的とし、イネを用いて葉緑体局在型ATPアーゼの基質となる無機リン酸(Pi)の量の変動と、ATPアーゼのH+流出活性の相関解析を行った。 <実験材料および方法>野生型イネとルビスコ過剰生産イネ、及びルビスコ発現抑制イネを用い、これらの植物を5つの水耕Pi施肥条件(低Pi、標準Pi、標準2倍量Pi、標準3倍量Pi、標準4倍量Pi、標準5倍量Pi)で生育させた。発芽後70日目のイネ葉身の完全展開葉を用いて、各種解析を進めた。 <結果及び考察>イネを異なるPi施肥条件で生育させた結果、イネ葉身には施肥量に応じたPiの蓄積が確認できた。葉身において、光合成駆動時の葉緑体局在型のATPアーゼの回転活性測定を行った結果、ATPアーゼの基質であるPiは十分に蓄積しているにもかかわらず、Pi施肥量の増加は、ATPアーゼのH+流出活性を低下させた。この時、CO2固定速度を評価すると、Piの施肥量の増加は、特にルビスコのカルボキシレーション反応に律速される光合成反応を抑制した。事実として単離ルビスコを用いた測定では、Pi施肥濃度の上昇に伴ってルビスコの活性化が抑制されていた。また、ルビスコの発現抑制イネにおいては、野生型イネおよびルビスコ過剰生産イネと比較して葉緑体局在型のATPアーゼのH+流出活性は、有意に低下することを確認した。この結果は、葉緑体局在型のATPアーゼのH+流出活性は、カルビンベンソンサイクル活性と強い相関があり、先行研究で示された葉緑体内部のPiによる制御よりも、むしろ葉緑体内部のATP/ADP比に強く依存する可能性が見出された。これらの結果に関しては、日本植物生理学会にて口頭発表を行い、研究成果の報告を行った。また、本成果は論文の執筆を開始しており、論文投稿予定をしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の結果に加え、本研究の遂行により明らかになった高Pi施肥条件下におけるイネの光合成活性低下は、1917年に初めて報告された植物における「Pi毒性」のメカニズムを説明できる可能性が高い(Shive, 1917)。多量なPiの施肥は植物を枯死させるが、その分子メカニズムは未だ明らかでない。今回、高Pi条件下ではルビスコの活性化が大きく抑制され、葉緑体におけるATPアーゼのH+流出活性を抑制したことから、高Pi条件では光合成の抑制に伴って、植物にとって毒である活性酸素種(ROS)の発生が光合成電子伝達反応において促進され、Pi毒性が誘導されている可能性が考えられた。実際、発芽後70日目におけるイネの乾燥重量は、標準Pi施肥条件と比較して、Pi施肥量が増加するにつれて低下し、特に葉鞘の生育が抑制されることを確認した。mRNAの発現解析により、ROSの生成状況を確認すると高Pi施肥条件では、ROS蓄積が確認され、この原因としては抗酸化能力に重要なスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の内、特に銅/亜鉛型のSOD活性の活性低下であることを見出した。銅/亜鉛型SODのmRNA量および葉内金属量の解析の結果、両者は葉内に標準Pi施肥条件と比較して十分量が存在していたことから、高Pi施肥条件では銅/亜鉛型SODの翻訳段階でタンパク質の形成阻害が起きていることが示唆された。つまり、高Pi施肥条件下においては、ルビスコの活性低下に始まるROS発生の促進と、葉内金属利用効率の低下が銅/亜鉛型SODの活性を抑止することにより、ROSが蓄積し、イネの生育低下と枯死を誘導している可能性が考えられた。これらの結果は、植物におけるPi毒性を新規に説明する結果である。当該研究結果に関しても、論文の執筆を開始しており、論文投稿予定をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は研究計画に記載している2番目の課題である「葉緑体局在ATPアーゼのH+流出活性制御改変がイネ収量に与える影響の解析」を遂行する。植物における葉緑体局在型ATPアーゼのH+流出活性制御は、光や温度、二酸化炭素濃度といった環境要因の変動に応答し、植物において毒物である活性酸素種の生成が促進されるような条件では、H+流出活性が低下する。この背景から、葉緑体局在型ATPアーゼのH+流出活性制御は、野外環境下における作物の生産性に影響を与える可能性がある。しかしながら、ATPアーゼのH+流出活性制御の変化が野外環境下での作物の生産性に与える影響を解析した例はない。そこで、昨年度より作成を行っているイネにおける葉緑体局在ATPアーゼγサブユニット改変によるH+流出活性変異体の生育解析、および生理解析を進める。 葉緑体局在型ATPシンターゼのH+流出活性改変がイネの生産性に与える影響に関しては、受入研究者のグループが所有する人工気象室および、野外温室にてイネを生育させ、イネ乾燥重量および、種子の100粒重、1株あたりの穂数・籾数、分げつ数、単位葉、相対成長速度の評価を行う。これと同時に、生育中における葉緑体局在型ATPアーゼの活性と光合成への影響を解析するために、発芽後、1週間ごとに植物個体全体におけるCO2固定速度とクロロフィル蛍光による光合成活性評価が可能な携帯型光合成解析装置を用いて、イネの光合成評価とイネの葉におけるATPアーゼのH+流出活性評価を評価する。その際、植物個体をサンプリングし、単位葉面積当たりの乾燥重量、クロロフィル定量、窒素量を測定する。また、イネにおける活性酸素種による酸化傷害の状態を確認する為にウェスタンブロット解析によってカルボニル化タンパク質の蓄積量、および酸化ストレスマーカーである遺伝子の発現量の評価も生育の進行に伴って行う。
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Research Products
(8 results)