2018 Fiscal Year Annual Research Report
Development and application of traveling wave Josephson parametric amplifiers based on three-wave mixing
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18J00874
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
浦出 芳郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員(PD) (60804234)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | パラメトリック増幅器 / ジョセフソン接合 / 標準量子限界 / 超伝導量子エレクトロニクス / 量子コンピュータ / マイクロ波 |
Outline of Annual Research Achievements |
超伝導量子回路系の研究における微小なマイクロ波信号の検出のためには、極低温下で動作し、標準量子限界に迫る低雑音かつ広帯域動作の初段増幅器が必要とされる。本研究では、このようなマイクロ波増幅器を開発し、量子ビットの周波数多重化読み出し等へ応用することを目指す。以下に研究実績の概要を示す。 (1)進行波型ジョセフソンパラメトリック増幅器の開発:信号が伝搬する線路を多数のSQUIDからなる非線形伝送線路とし、その傍を伝搬するポンプ波の磁束がSQUIDの臨界電流を変調し、三光波混合に基づくパラメトリック増幅が生じる構造を検討した。進行波型増幅においては、位相整合と呼ばれる光子間の運動量保存が満たされる必要があり、本研究では、ポンプ導波路の実効的な位相速度を低下することで位相整合を達成する方式を考案した。このアイデアに基づき回路・電磁構造の設計を行い、試料の作製を開始した。 (2)長尺導波路の作製:本研究では、開発した増幅器を導波路と組み合わせてリング共振器を構成し、パラメトリックパルス発振を観測することを目指している。この実験には低損失かつ数mの長い導波路が必要である。導波路を細かく折り畳むことで、数cm角のチップ上に長さ約2mの伝送線路共振器を作製し、特性の評価を行った。共振器の損失の少なさを表す指標である、単一光子レベルでの内部Q値は30万ほどとなり、良好な共振器を形成できたといえる。 (3)インピーダンス整合型増幅器の開発:広帯域な増幅特性は、通常のパラメトリック増幅器にインピーダンス整合回路を付け加えることでも達成できる。多数のジョセフソン接合を必要とする進行波型と比べ、数個の接合でよいインピーダンス整合型は作製上の利点がある。(1)と並行して設計を行い、試料の作製・評価を行った。作製した増幅器は帯域幅400MHz、利得20dBという、従来型と比べ約100倍の広帯域特性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究課題の主目的である「三光波混合に基づく進行波型ジョセフソンパラメトリック増幅器」の実現やその応用に向けて、(i)増幅器の電気回路モデル・マイクロ波電磁構造の検討、(ii)微細加工プロセスによるデバイス作製技術の確立、(iii)希釈冷凍機を含むマイクロ波測定系の整備、の三点を目標として研究を行った。 (i)については、すでに増幅器の初期設計を終えて試料の作製を開始し、試料を測定して改良していく段階に入っている。(ii)については、増幅器の試料の作製を既に始めており、第一版の試料は2019年度はじめに特性評価を開始する予定である。また、増幅器を応用したパラメトリックパルス発振の観測に必要となる長尺導波路を作製し、試料の作製技術を蓄積している。(iii)については、受け入れ研究室で近年導入した希釈冷凍機二台について、本研究における試料を評価するために、冷凍機内外のマイクロ波測定系を整備する必要があった。本年度前半にマイクロ波信号入力や信号検出のための同軸線ポートの導入、冷凍機からの取り出し同軸配線の取り回し等を全て完了し、二台の希釈冷凍機で超伝導量子回路や超伝導量子ビットの特性評価ができる環境を整えた。 以上の点から研究は順調に進展していると評価している。
加えて、進行波型の増幅器と並行して行ったインピーダンス整合型の増幅器の研究では、試料の作製・評価まで完了し、利得帯域幅400MHzほどと従来型のジョセフソンパラメトリック増幅器と比べて100倍ほどの広帯域特性を達成し、大きな進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は以下の計画に基づいて研究を推進する。 (1) 三光波混合に基づく進行波型ジョセフソンパラメトリック増幅器の開発:2018年度中に初期デバイスの設計を終えたので、所属機関の微細加工設備を利用して試料の作製を行い、希釈冷凍機内の数十ミリケルビンの極低温環境下でデバイスのマイクロ波増幅特性の評価を行う。試料の評価結果を次回の試料作製にフィードバックして増幅器の電磁構造・回路パラメータの改善・最適化を進める。また、作製した増幅器に対し、標準量子限界に迫る低雑音特性や、飽和入力パワーといった増幅器の諸特性の評価を行う。 (2) パラメトリックパルス発振に向けた長尺導波路の作製:本研究では作製した増幅器をリング型導波路と組み合わせてリング共振器を構成し、広帯域のパラメトリックパルス発振を観測することを目標としている。こういった実験には数mの低損失な導波路が必要となる。2018年度に引き続きこのような長尺導波路の作製に取り組む。特に2019年度は、大きなカイネティックインダクタンスを示し、遅波効果が期待できる窒化チタンをもちいた導波路を作製し、(1)と同様に極低温でのマイクロ波特性を評価する。 (3) インピーダンス整合型ジョセフソンパラメトリック増幅器の開発:主目的である進行波型増幅器と同様に、三光波混合を利用しつつ広帯域な増幅器として、インピーダンス整合型の増幅器がある。進行波型が多数のジョセフソン接合を必要として試料作製の難易度が高いのに対し、インピーダンス整合型は数個のジョセフソン接合で済むという作製上のメリットがある。(1)の進行波型のバックアップとして、並行してインピーダンス整合型増幅器の帯域幅などの特性改善を進める。
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Research Products
(2 results)