2018 Fiscal Year Annual Research Report
行動中マウスの膜電位イメージングによる能動的嗅覚受容機構の解明
Project/Area Number |
18J00899
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
稲垣 成矩 九州大学, 医学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 嗅覚 / 嗅神経細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在まで、鼻腔に取り込まれた匂い物質は、嗅神経細胞に発現している嗅覚受容体を“活性化”した後、嗅球で糸球体の“活性化”パターンを形成すると考えられてきた。ところが実際、二光子カルシウムイメージングにより嗅神経細胞軸索末端の活動計測を行ったところ、匂い刺激によって~25%の糸球体が活性化されたのに対し、~5%の糸球体は“抑制化”されることを発見した。そこで報告者は短軸索細胞による糸球体間の前シナプス抑制が、抑制性応答に関与している可能性を考え、嗅神経細胞特異的にGABAB/ドーパミンD2受容体をノックアウトしたマウスを作製した。しかしながらこのノックアウトマウスにおいて、軸索末端における抑制性応答は無くならなかった。また未知の前シナプス抑制が関与している可能性を考え、嗅神経細胞特異的にテタナス毒素の軽鎖を発現する遺伝子組み換えマウスも作製した。このマウスでは、全ての嗅神経細胞からのシナプス伝達は遮断されているはずであるが、依然として抑制性応答は見られた。以上の実験から、軸索末端における抑制性応答は、前シナプス抑制によるものでは無いことが分かった。そこで報告者は嗅球よりもさらに末梢の領域で抑制が起こっている可能性を考え、嗅上皮において嗅神経細胞細胞体の活動を計測した。その結果、細胞体においてすでに抑制性応答が起こっていることが確認された。嗅上皮では側方抑制は存在しないことから、匂い物質と嗅覚受容体の結合そのものが、嗅神経細胞の自発活動を抑制することが示唆された。 今回得られた結果は、従来、生体において作動薬としてのみ機能すると考えられてきた匂い物質が、逆作動薬としても機能することを示唆する結果であり、非常に興味深い。嗅神経細胞からの興奮性と抑制性シグナルの混在した入力は、嗅球における匂い情報の表現をより豊富で複雑なものにしている可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
報告者はプロジェクト開始当初、嗅球の膜電位イメージングを行うため、その準備として嗅神経細胞のカルシウムイメージングを行った。その過程で、予想外なことに匂いを受容すると、多くの糸球体(嗅神経細胞軸索末端)において興奮性のみならず抑制性応答が観察されることが判明した。これは、全く未知の現象であり、既存の知見やモデルでは説明がつかない現象であった。そのため更に検討を行ったところ、前シナプス抑制の結果ではなく、嗅上皮に位置する嗅神経細胞細胞体のレベルで既に抑制応答が見られることが判明した。これまで、匂い物質は嗅覚受容体に結合すると、嗅神経細胞を「活性化」させると考えられてきたが、実際には多くの受容体が感覚ニューロンのレベルで「抑制」されることを示している。これは、多くの匂い物質が逆作動性活性を持つためであると考えており、更なる実験を行っている。 現在まで、嗅神経細胞から嗅球への入力は、匂い物質と嗅覚受容体の結合親和性を反映した単純な興奮性シグナルのみであると考えられていた。しかし興味深いことに報告者は、興奮性シグナルだけではなく、“抑制性”シグナルも同様に、嗅神経細胞から嗅球に入力されることを発見した。今年度得られた結果は、単純なシステムであると考えられてきた嗅覚神経回路の末梢部分において、実際は複雑なコーディングが行われていることを示唆しており、嗅覚受容機構に関する理解を大きく塗り替える可能性がある。報告者が以前申請してた研究計画と方向性が異なってきているが、上記の点において、報告者が得た結果の意義は大きい。よって当該年度における研究は、期待を上回る進展があったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた結果により、匂い物質が鼻腔に取り込まれた後、嗅上皮において嗅神経細胞の活動が活性化されるのみならず、「抑制化」されることを発見した。この結果は、匂い物質が逆作動薬として働くため、嗅覚受容体との結合自体が嗅神経細胞の自発活動を抑制している可能性を示唆している。 そこで報告者は、培養細胞を用いたin vitro実験系を用いることで、匂い物質による逆作動薬効果を証明することを考えている。具体的には、嗅覚受容体を発現したHEK293細胞において、cAMP応答配列を利用したルシフェラーゼ発現アッセイを行い、匂い刺激による細胞内cAMP濃度の変化を計測する。cAMP濃度と嗅覚受容体の活動には正の相関があるので、このシステムを用いてハイスループットなスクリーニングを行うことで、どの嗅覚受容体―匂い物質の組み合わせが、逆作動薬効果が示すのかを、大量の組み合わせの中から調べることが可能である。組み合わせの同定後は、匂い物質との結合親和性や反応速度といった詳細な解析を、蛍光cAMP指示薬を用いて行う予定である。 また嗅神経細胞の抑制性応答が、匂い受容にどの程度貢献しているか調べる必要がある。そのためアデノ随伴ウイルスを用いて、光により神経活動を抑制可能な光遺伝学ツールを嗅神経細胞特異的に発現させ、例えば単一糸球体を光刺激した際に匂いを感じることが可能か、マウスの行動実験で調べる予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] Genetically encoded chemiluminescent voltage indicator applicable to brain activity recording in freely moving mice.2018
Author(s)
Inagaki, S., Agetsuma, M., Ohara, S., Iijima, T., Wazawa, T., Arai, Y., Nagai, T.
Organizer
OIST workshop; Olfaction: the stimulus space, neural representation and behavioural relevance.
Int'l Joint Research
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