2019 Fiscal Year Annual Research Report
行動中マウスの膜電位イメージングによる能動的嗅覚受容機構の解明
Project/Area Number |
18J00899
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
稲垣 成矩 九州大学, 医学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 嗅覚 / 嗅神経細胞 / 抑制性応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
今までは、匂い物質が嗅覚受容体に結合し、嗅神経細胞を「活性化」させると考えられてきたが、実際には匂い物質が多くの嗅神経細胞の活動を「抑制化」することが、本研究から明らかになった。報告者は、この抑制性応答が、定常状態における活性(基礎活性)の高い嗅覚受容体において特異的に生じている可能性を考えた。そしてin vitroルシフェラーゼレポーターアッセイにより、マウス嗅上皮からクローニングされた合計176種類の嗅覚受容体のうち、特に基礎活性が特に高かった17種類の嗅覚受容体を選出した。その後、選出された嗅覚受容体に対して、9種類の匂い刺激を行い、Olfr644とOlfr160が、特定の匂い物質に対して抑制性の応答を示すことが明らかになった。以上の結果から、嗅神経細胞における抑制化応答が、匂い物質-嗅覚受容体の逆作動薬効果によって引き起こされていることが示唆された。 次に報告者は、嗅神経細胞における抑制性応答の機能的な役割について検証を行った。自然界において我々が認知する匂いは、様々な匂い物質からなる混合臭である。従来、嗅神経細胞の混合臭に対する応答は、各匂い成分に対する活性化応答の単純な総和になると考えられてきた。ところが抑制性応答が嗅神経細胞でみられることから、実際は多くの嗅神経細胞の活動が、異なる匂い物質により拮抗的に阻害されているのではと考えた。混合臭に対する嗅神経細胞の活動を二光子カルシウムイメージングにより計測したところ、予想通り匂い成分が、他種類の匂い成分に対する応答を阻害することが明らかになった。ところが予想外なことに、匂い物質が他の匂い物質に対する嗅神経細胞の応答を増強することも明らかになった。以上の結果は、匂い物質が逆作動薬として受容体の基礎活性を抑制することや、拮抗薬/アロステリック増強薬として、他の匂い物質に対する受容体の活性にも作用することを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
報告者はプロジェクト開始当初、嗅球の膜電位イメージングを行うため、その準備として嗅神経細胞のカルシウムイメージングを行った。その過程で、予想外なことに匂いを受容すると、多くの嗅神経細胞において興奮性のみならず抑制性応答が観察されることが判明した。これは既存の知見やモデルでは説明がつかない現象であったため、さらに検討を行ったところ、匂い物質が嗅覚受容体に結合する段階において、すでに抑制性応答が生じていることを示唆する結果が得られた。また従来、嗅神経細胞の混合臭に対する応答は、各匂い成分に対する応答の単純な足し算であると考えられてきたが、実際は混合臭に対して非線形的な応答をしていることが明らかになった。これは最も末梢な部位である嗅上皮において、嗅球や嗅皮質でみられるような、複雑な匂い表現がすでに生じていることを意味しており、非常に興味深い結果である。 当該年度得られた結果は、匂い物質が嗅覚受容体に結合する段階において、活性化・抑制化応答や、混合臭に対する非線形的な匂い応答のような、多様な匂い応答様式が生じていることを示唆しており、嗅覚受容機構に関する理解を根本的に塗り替える新しい知見であると考えている。報告者が当初申請してた研究計画と方向性が異なってきているが、上記の点において、報告者が得た結果の意義は大きい。また以上の結果は、プレプリントサーバーにおいてすでに公開されており、現在は論文投稿作業中である。よって当該年度における研究は、期待を上回る進展があったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
A) Olfr644を発現する嗅神経細胞のin vivo活動計測 本年度における研究では、in vitroアッセイにおいて逆作動薬効果を示した嗅覚受容体が、マウス個体内において、実際に抑制化応答を引き起こすのか調べる。そのため最も反応性の高かったOlfr644を、全ての嗅神経細胞に発現するトランスジェニックマウスを作製する。そしてOlfr644に対して逆作動薬効果を示した匂い物質で刺激を行い、抑制性応答が確認できるか、二光子蛍光カルシウムイメージングによって確認する。また嗅神経細胞は、 匂い物質との結合により、自発発火を抑制することで、抑制性応答を生み出していると考えられる。したがって、自発活動の高い嗅神経細胞において、選択的に抑制化応答が生じている可能性が高い。嗅神経細胞の自発活動の高さと抑制性応答の関係性を明らかにするため、Olfr644にランダム変異を加え、匂い物質に対する選択性と感度を持ちつつ、基礎活性の異なる変異体を、in vitroルシフェラーゼレポーターアッセイによって選出する。そして子宮内電気穿孔法により、選出された変異体を嗅覚受容体に導入し、逆作動薬に対する抑制応答にどのような変化が生じるのか調べる B) 濃度の異なる混合臭に対する嗅神経細胞のin vivo活動計測 当該年度における、混合臭を用いたin vivo二光子蛍光カルシウムイメージングにより、匂い成分が、他の匂い成分に対する嗅神経細胞の応答を阻害、または増強することが明らかになった。本年度では、この阻害や増強の強度が、混合する匂い成分の濃度や種類によってどのように変化するのか調べ、嗅覚受容体の混合臭に対する非線形的な応答のメカニズムや意義を明らかにする。
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Imaging local brain activity of multiple freely moving mice sharing the same environment2019
Author(s)
Inagaki, S, Agetsuma, M, Ohara, S, Iijima, T, Yokota, H, Wazawa, T, Arai, Y, Nagai, T
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 9(1):7460
Pages: 0
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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