2019 Fiscal Year Annual Research Report
地震活動と非地震性滑りの定量的関係の解明と非地震性滑りを含む地震統計モデルの構築
Project/Area Number |
18J01056
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西川 友章 京都大学, 防災研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 地震活動 / 非地震性滑り / スロー地震 / 群発地震 / スロースリップイベント |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は主に以下の3つのテーマに取り組んだ。 (1)日本海溝沿いのスロー地震分布の解明。平成30年度にScience誌に投稿した「日本海溝沿いのスロー地震分布」に関する論文の改訂作業に取り組んだ。テクトニック微動の震央移動現象の追加解析、沈み込む鹿島海山列と茨城県沖のスロー地震関連現象の詳細な位置の比較、テクトニック微動の検出に使用したS-net全観測点全成分のノイズレベルの確認、茨城県沖における小規模のスロースリップイベント(以下、SSE)の検出などを行なった。以上の改訂後、当該論文はScience誌に受理・掲載された。 (2)ニュージーランド・ヒクランギ海溝における群発地震活動とスロー地震活動の比較。平成30年度に作成したヒクランギ海溝沿いの群発地震活動カタログと、ニュージーランド北島のGNSS地殻変動観測データの網羅的比較を行なった。その結果、SSEに起因すると考えられる東向き地殻変動のタイミングの前後に群発地震が集中して発生することが明らかとなった。これらの群発地震の中に、地殻変動に10日以上先行して発生するものを見つけた。これは房総半島沖で確認されているSSEと群発地震とは大きく異なる重要な特徴である。房総半島沖のようにSSEによる応力変化で群発地震が駆動されているなら、SSEによる地殻変動と群発地震には大きな時間ずれは生じない。このことから、ヒクランギ海溝沿いの群発地震活動はSSEによる応力変化以外の要因(例えば地殻内流体移動)によって駆動されている可能性が高いことが明らかとなった。 (3)日本周辺における非地震性現象モニタリングのための異常地震活動凖リアルタイム検出システムの構築。非地震性現象の発生を即時に把握するため、非地震性現象に誘発されたと考えられる異常な地震活動を凖リアルタイムで検出するシステムをETASモデル(Ogata, 1988)を用いて構築した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は、平成30年度にScience誌に投稿した「日本海溝沿いのスロー地震分布の解明」に関する論文の改訂作業に特に集中して取り組み、当該論文はScience誌に掲載されるに至った。この研究では、防災科学技術研究所の日本海溝海底地震津波観測網(S-net)をはじめとする日本の陸海域地震・地殻変動観測網を駆使し、日本海溝のスロー地震分布の全容を初めて明らかにした。さらに、日本海溝沿いのスロー地震多発地域は2011年東北地方太平洋沖地震のプレート境界断層すべりと棲み分けて分布することを初めて明らかにした。また、これらの研究成果に関する記者会見を行うなどアウトリーチ活動にも積極的に取り組んだ。 ニュージーランド・ヒクランギ海溝における群発地震活動とスロー地震活動の比較研究では、地殻変動に10日以上先行して発生する群発地震を初めて見つけた。これは、房総半島沖で確認されているSSEと群発地震とは大きく異なる特徴であり、ヒクランギ海溝における群発地震発生メカニズムを解明するうえで重要な観測事実である。ヒクランギ海溝沿いの群発地震活動はSSEによる応力変化のような既存のメカニズムでは説明できず、地殻内流体の移動現象など新たな可能性を検討する必要がある。このような群発地震発生メカニズムの多様性は、令和二年度、非地震性滑りを考慮した統計モデルの構築にとり組む上でも特に注意すべき重要な知見である。これらの研究成果はTaiwan-Japan Workshop on Crustal Dynamicsで発表された。また、現在、これらの研究成果に関する論文を投稿準備中である。 令和元年度は、今後の研究の足がかりとなる重要な研究成果をあげ、それらを学術誌や国際学会で発表できた。当初予定していた地震活動統計モデルの改良作業の着手には至らなかったものの、総合的に見て概ね順調に進展していると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和二年度は、昨年度までの研究で明らかにした、背景地震発生レートと非地震性滑りに伴う地殻変動量を結ぶ関数形や時間ずれの分布を用いて、非地震性滑りを考慮した新しい地震統計モデルの構築を目指す。 まず、昨年度、ニュージーランド・ヒクランギ海溝において明らかにした群発地震活動(背景地震活動の活発化)とスロースリップイベント( 間欠的な非地震性すべり)に伴う地殻変動の定量的な関係に関する研究成果を学術誌に投稿する。この論文の追加解析と改訂作業にも必要に応じて取り組む。ヒクランギ海溝と同様の解析を相模トラフ房総半島沖においても行い、群発地震活動とスロースリップイベ ントに伴う地殻変動の定量的な関係を房総半島沖においても明らかにする。昨年度の予備的な解析によれば、群発地震活動とスロースリップイ ベントに伴う地殻変動の定量的な関係は、ヒクランギ海溝と房総半島沖で大きく異なる可能性が高い。この差異の原因をテクトニクス(地殻や 堆積物の厚さ)や群発地震発生メカニズム(地殻内流体移動やスロースリップイベントの断層滑りによる応力集中)の観点から考察する。 以上のようにして明らかにした背景地震発生レートと非地震性滑りの定量的な関係を、ETASモデルなどの既存の地震活動統計モデルに組み込む。具体的には、時間ずれを考慮した背景地震発生レートと非地震性滑りの比例関係をETASモデルの定常地震発生レートの項に加え、新しい地震統計モデルを作る。このモデルをヒクランギ海溝や房総半島沖の地震活動記録に適用し、AICに基づく既存のモデルとの比較を行う。また、この新しいモデルを両地域の最新のスロースリップイベントの観測データに適用することで、両地域の地震活動確率予測の精度が改善するか否か確認する。さらに、同様の解析を日本海溝銚子沖や琉球海溝のスロースリップイベントにも適用する。
|