2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J01280
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
高野 壮太朗 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門 生物資源情報基盤研究グループ, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 表現型ばらつき / ライブセルイメージング / 飢餓応答 / 1細胞解析 / 細胞履歴 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内の生体活動は膨大な数の生化学反応とその組み合わせによって成り立っており、比較的単純な原核生物の細胞であってもその数は数千から数万に及ぶ。これらの生化学反応の一部は決定論的には進まず、内在的なノイズの影響によって確率論的に振る舞う性質を持っている。結果的に環境変化の有無に関わらず細胞内部にはゆらぎが生まれ、全く同じ遺伝情報を持つ集団内でも個々の細胞の生理状態にばらつきが生じる。こうした細胞に内在するゆらぎは、微生物における薬剤耐性獲得といった、生き物が持つ機能や特性に決定的な違いを与えることが知られている。しかしながら、こうした内在的なゆらぎやばらつきが、どのようなプロセスを経て増幅され、細胞ごとの定性的な違いを生み出すかについては今なお理解が不足している。その理由として、ばらつきの発展プロセスを経時的に観察するための計測システムや、そうした測定結果を考察するための理論的枠組みが未だ発展段階にあることが挙げられる。 私は、細菌の飢餓応答をモデルとして、個体ごとの生理状態の時系列変化を生きたまま長期間観察し、集団内のばらつき発展プロセスを可視化・定量可能な1細胞観察系の構築に取り組んできた。昨年度は、大腸菌の飢餓応答や成長特性の定量を容易にするための蛍光レポーターの作製を行うとともに、マイクロデバイスを使った微生物細胞の1細胞観察系の構築に取り組んだ。本年度は、昨年度構築した実験系を用いて、富栄養→貧栄養の環境変化の中での細胞ごとの成長速度(伸長速度と分裂時間)のゆらぎと、それらが細胞の生存率に与える影響について解析を行った。その結果、貧栄養環境に対して高いストレス耐性を持つ小集団に特有の成長特性が明らかとなり、細胞ごとの生存能力を成長パターンによって見分けるための指標を確立することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ばらつきの発展プロセスと生存率への影響を明らかにすることを目標としていた。そのために、個々の細胞が辿ってきた成長の履歴を定量するための自動解析ツールの開発を行い、数千の細胞の成長特性を高速に定量することに成功した。その結果、飢餓環境中の特定の期間において、個体ごとの応答性の違いが特に増幅されやすくなることを見出した。こうして明らかになった細胞成長の指標を基にして、飢餓条件で生存を続けられる細胞とそうでない細胞を見分けることにも成功した。以上のように、細胞ごとの成長特性のばらつきの発展過程とそれらの生存率への影響を明らかにすることが出来たため、本年度は当初の計画通りの進捗が見られたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究から、成長パターンの違いから細胞ごとの生存確率を推定することが可能になった。次年度は、こうした細胞の生死に関わる成長速度のばらつきが、具体的にどのようなプロセスを経て増幅されていくのかを明らかにすることにより、集団内のばらつきの発展プロセスが細胞の運命に与える影響をより詳細なレベルで明らかにする。細胞成長と密接にかかわる、染色体分配や細胞分裂といったプロセスとの相互関係についても考慮し、成長速度のばらつきからストレス応答性や抵抗性といった細胞の重要な特性へと与える影響を説明可能な細胞成長―ストレス耐性モデルの構築に取り組む予定である。
|
Research Products
(2 results)