2019 Fiscal Year Annual Research Report
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18J01398
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Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
中山 遼平 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター, 特別研究員(SPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 心理物理学 / 視覚意識 / 情報統合 / 注意 / アクション |
Outline of Annual Research Achievements |
意識的知覚の成立過程を理解するため,情報統合における注意の役割に着目してきた. いくつかの予測にもとづく現象観察中,位置と運動の結合錯誤により生じる位置ずれ錯視が,近傍に提示されたフラッシュにより更正されること(リセット現象)を見出した.心理物理学実験において,二重課題法を用いて観察者の注意を分散させると,(フラッシュが提示されているにも関わらず)位置ずれが再び知覚された.一方,観察者が位置ずれ錯視の対象に視線を向けるとき,視線が向く直前に位置ずれが更正されている可能性が高いことがわかった.これらの結果は,アクションに先行する注意の移動が位置と運動の正しい統合に関与していることを示唆している.これらの成果は,国際視覚学会などでの発表後に,報告者を筆頭著者とする原著論文として国際誌に採録が決定している(Nakayama & Holcombe, in press Journal of Vision). さらに最近,位置と運動の統合に関わる新たな錯覚現象を発見した.具体的には,動的背景上において運動物体の消失位置が外挿して知覚される(静的背景上では生じない).心理物理学実験の結果,この外挿は動的背景に含まれる運動成分や物体と混同されやすい輝度(色)成分には依存せずに生じることがわかった.また,外挿量は運動物体の速度とほぼ線形に相関した(時間換算で約60ミリ秒分).一方,複数の運動物体を同時に追跡することで注意の効果を弱めた場合や,プライミングを用いて消失後の注意による追跡(慣性)を逆転させた場合,外挿は消失した.これらの結果は,運動追跡にもとづくトップダウンの注意が知覚意識そのものを生成し得ることを示唆している.この成果について,オーストラリア認知神経学会で発表したのち,論文を執筆中である(Nakayama & Holcombe, in preparation).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度までに視覚特徴統合の周期性に関する心理物理学・神経生理学実験を完了しており,それらの結果をまとめた原著論文が令和元年度に国際誌に公刊された(Nakayama & Motoyoshi, 2019 Journal of Neuroscience).PD申請時に計画していたモダリティ間での特徴統合に関して,最近イタリアのグループが類似の周期性を報告したため,実験の実施について慎重に検討している.一方,シドニー大学との共同研究では,独自に発見した錯視をツールとして,視覚系の情報統合における注意の役割の一部を解明した(Nakayama & Holcombe, in press Journal of Vision).さらに,知覚意識の生成に注意が直接的に関与することを示唆する錯視を発見し,心理物理学実験の結果をまとめた論文を執筆中である(Nakayama & Holcombe, in preparation).また平成30年度までの成果をまとめ,アジア太平洋視覚学会のシンポジウムで招待講演をおこなった.以上のように,研究テーマと深く関連する錯視や実験系を考案し,新たな知見を社会に発信している.
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Strategy for Future Research Activity |
最新の心理物理学・神経生理学的知見は,頭頂・前頭に掛かる神経ネットワークが律動様の注意による選択やその移動と関係していることを明らかにしつつある.しかし,上述のリセット現象における注意の効果はむしろ後頭の一次視覚野における高解像度の位置表現にもとづくものではないかと推察している(もしそうだとすると頭頂・前頭の神経ネットワークからのフィードバックが重要か).先行研究とのギャップをうめるため,注意の移動や律動が,視覚系において位置と運動をはじめとする諸々の情報統合をどのように支えているか,その神経メカニズムに検討を加える.上述の運動外挿現象は空間パラメータにより定量化できるため,脳機能計測と相性が良いと考えられる.以前発見した運動物体知覚のシータリズム離散化現象(Nakayama et al., 2018)もまた周期性を切り口として神経基盤にアプローチする上で有効と考えられる.これらのオリジナルの錯視を用いて,神経相関,できれば因果関係まで,捉えるための脳機能計測および非侵襲脳機能操作実験を準備している.一連の実験結果の解析と考察およびFITやIITなど既存のセオリー群との関連を通じて,意識の成立過程への理解を深める.その理論的帰結から予測される新たな仮説や関連する疑問にも取り組む予定である.
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Research Products
(9 results)