2018 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロ波分光による水分解用光触媒の高速性能評価法と高効率水分解系の開発
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18J01488
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鈴木 肇 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 光触媒 / 時間分解マイクロ波伝導度測定 / 水分解 / 可視光 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は以下の2つの研究テーマに取り組んだ。 1.PbBiO2X (X = Cl, Br)を用いた可視光酸素生成と価電子帯形成におけるローンペア電子の役割 新規可視光応答型光触媒として、PbおよびBiを構成元素として含む一連のオキシハライドを探索し、シレン構造を有するオキシハライドPbBiO2X (X = Cl, Br, I) が可視光吸収とともに水分解に適したバンド位置を有することを明らかにした。Pbを含まない類似化合物SrBiO2Cl、BaBiO2Clとの各種物性比較およびDFT計算の結果から、PbBiO2X 化合物ではPb 6s軌道とO 2p軌道の混成によって価電子帯上端位置が引き上げられていることが示された。価電子帯上端付近の状態密度が主にO 2pで構成されるPbBiO2Cl、PbBiO2Brは、可視光照射下で安定に酸素を生成したが、I 5p軌道の価電子帯上端への寄与が支配的であるPbBiO2Iでは光吸収によって生成した正孔による自己酸化反応が進行した。 2.マイクロ波分光による光触媒の高速性能評価と律速過程の解明 時間分解マイクロ波伝導度(TRMC)法によって得られるキャリアの生成効率、移動度、寿命が光触媒活性と強く相関していることを明らかにした。高効率光触媒の一つであるBi4TaO8Clに着目し、ハロゲン欠陥がTRMC信号の減衰速度を増加させる一方で、焼結温度の増加が結晶性の向上とTRMC信号強度の増加につながっていることを見出した。さらに、TRMC信号の強度と寿命の積を指標とすることで、光触媒反応による酸素発生速度を予測できることを確立した。この知見を基に、未だプロセス条件が最適化されていないPbBiO2Clの評価を行い、従来想定されていた最適焼結温度より低い温度が最適であることを予見し、既報の効率を3倍向上させることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目の研究計画においては、代表的な光触媒の水分解活性と時間分解マイクロ波伝導度(TRMC)信号の相関関係を調査、解析することを第一目標としていた。実際に、高効率な光触媒として近年注目されているいくつかの酸ハロゲン化物(Bi4TaO8Cl、PbBiO2Clなど)について、合成温度を系統的に変化させてTRMC測定・解析を行ったところ、TRMCシグナルは光触媒活性を大きく左右する結晶性の変化やハロゲン欠陥の生成に敏感であり、したがって光触媒活性とも非常に良い相関があることが明らかとなった。また、この測定手法を応用した光触媒活性の高速最適化にも取り組んだ。さらに有効質量の第一原理計算も順調に進んでおり、こちらもTRMC信号と強い相関があることを既に見出している。一年目のもう一つの研究目標として、欠陥濃度、キャリア密度が光触媒活性に与える影響に関する検討も挙げていた。このテーマに関しては、光触媒研究の初期から注目され続けてきたチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)にフォーカスして、ストロンチウム欠陥が活性とTRMCシグナルに与える影響を明らかにし、過剰なストロンチウム源が活性を劇的に向上させる要因を明らかにしている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、高効率光触媒の一つである酸ハロゲン化物光触媒Bi4TaO8Cl、PbBiO2Clに着目し、ハロゲン欠陥がTRMC信号の減衰速度を増加させる一方で、焼結温度の増加が結晶性の向上とTRMC信号強度の増加につながっていることを見出した。さらに、TRMC信号の強度と寿命の積を指標とすることで、光触媒反応による酸素発生活性を予測できることを確立した。本年度は、このTRMC測定により得られる光伝導度と光触媒活性、さらにはキャリアの有効質量との相互関係性を明らかにする。キャリアの有効質量は移動度の逆数に比例する。また、光伝導度はキャリアの生成効率と移動度の和の積に変換できることから、キャリアの有効質量と光伝導度の間には密接な関係があることが予想できる。しかし、TRMC光伝導度と有効質量との関係は未だ明らかになっていない。光触媒反応においても、触媒表面への光励起キャリアの移動は光触媒性能を支配する重要な因子の一つであることから、キャリアの有効質量と光触媒活性の間にも強い相関があると考えられているが、この関係についても未だ不明な点が多い。そこで本年度の研究では、前年度にTRMC信号と光触媒活性の間に良い相関が得られたPbBiO2Clにフォーカスし、元素置換によるバンド構造の制御を行うことでキャリアの有効質量を連続的に制御した試料を用意し、それらの光触媒活性試験とTRMC測定を行う。これらの結果と第一原理計算によって算出した有効質量を定量的に比較することで、有効質量、光触媒活性、光伝導度の間の相関関係を明らかにする。
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Research Products
(6 results)