2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J01631
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高松 由基 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 特別研究員(SPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | エボラウイルス / ヌクレオカプシド / 転写因子VP30 / リン酸化 / 輸送機構 / VP24のYxxLドメイン / 組換えウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
申請計画に従い、二つの大きな研究課題 1)転写因子VP30による転写・複製制御機構の解明、2) ヌクレオカプシド輸送機構の解明、を達成するために共同研究先であるドイツ国と所属研究室である京都大学ウイルス・再生医科学研究所のそれぞれで研究を進めた。 昨年度は2/3の期間をドイツに滞在し、共同研究先のBSL-4研究施設で下記の研究を進めた。研究課題1)については、 転写因子VP30をリン酸化するキナーゼを世界に先駆けて同定し、その作用機序を解明することができた。この研究によりエボラウイルスは一次転写・二次転写を最適に行うためにVP30のリン酸化をスイッチすることが示唆された。研究課題2)については4つの小目標を構築した。 ①細胞侵入過程のライブイメージング法の構築、②組換えウイルスの構築、③ヌクレオカプシドの形成・輸送に関わるウイルスタンパク質の同定、④非感染性ライブイメージング法の応用、についてそれぞれ研究を進めた。①、②は本邦では行うことができないので、ドイツ国のBSL-4実験施設を用いて研究を行なった。これはBSL-4使用許可を持つ申請者の強味を生かした研究と言える。また残りの期間は所属研究室で研究を進め、③では前駆研究で構築した非感染性ライブセルイメージングシステムを用いて、ヌクレオカプシドの形成と輸送に関わるウイルスタンパク質をドメインレベルまで同定することができた。④では特異的治療薬の候補となりうる宿主因子の同定を試みた。1), 2)-③,④の研究成果については基礎データが集まったので、今年度中に国際誌に発表したいと考えている。以上のように、当初の研究計画以上の進展が得られた1年であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請計画では、エボラウイルスの複製機構を微細構造から解明するために、二つの研究の柱を準備していた。一つ目は、転写因子であるVP30に注目して転写・複製制御機構を解明することであり、二つ目は、転写・複製の鋳型となるヌクレオカプシドの形成機構と輸送過程を微細構造から解明することであった。 一つ目の課題の核心は、VP30を特異的にリン酸化するキナーゼをどのように同定するかであった。そのためにVP30と相互作用する宿主因子を免疫沈降法で網羅的に回収し質量分析法で解析した。この際に候補となったキナーゼが複数あったため、“真のファクターを特定することが難しかった。また、VP30がリン酸化されることの生物学的意義が明確にはわかっていなかった。 これを解決するために、リン酸化の状態が異なる複数のVP30変異体を準備し、被リン酸化部位を持つ変異体に特異的に相互作用したキナーゼに注目することで、50個以上あった候補を10個以下に減らすことができた。さらに、組み換えタンパク質発現系を構築しin vitroで解析することで、VP30をリン酸化する酵素を直接的に同定することができた。続いてin vivoの機能解析により、VP30のリン酸化が一次転写に重要であることがわかった。これまでにVP30の脱リン酸化が二次転写に必須であることがわかっているので、エボラウイルスはVP30のリン酸化を制御することで、自身の増殖を最適化していることが示唆された。 同定したキナーゼの阻害薬がEBOVの特異的治療薬になる可能性があるので、今後も研究を継続したい。また二つ目の研究内容についても、輸送機能が異なるヌクレオカプシド様構造を構築することで、ヌクレオカプシドの輸送に関わる宿主因子を明らかにするための基盤が整った。以上のように著しい研究内容の進展があったので、当初の計画以上に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題1)転写因子VP30による転写・複製制御機構の解明については、キナーゼ阻害薬やキナーゼ認識部位をブロックする薬剤などを用い、VP30のリン酸化を介した抗ウイルス薬開発の基盤を構築したいと考えている。 研究課題2)ヌクレオカプシド輸送機構の解明については、昨年度に引き続き4つの小目標に分けて研究を進める。①細胞侵入過程のライブイメージング法の構築については、②で構築した蛍光タンパク質組換えウイルスを用いることで、感染初期から十分なシグナルを検出することができた。今後は、この過程におけるヌクレオカプシドと種々の宿主因子との相互作用をライブイメージングで解明したいと考えている。これらの感染性ウイルスを用いた研究は引き続きドイツ国で行う予定である。 ③ヌクレオカプシドの形成・輸送に関わるウイルスタンパク質の同定では、ヌクレオカプシドの輸送に必須である3つのウイルスタンパク質のうち、1つのタンパク質で、輸送に重要なドメインを同定できた。このドメインに変異を入れたタンパク質を用いることで、輸送能力が異なるヌクレオカプシド様構造を構築することができた。今後は、このヌクレオカプシド様構造の変異体を用いて、介在する宿主因子の違いを解明したいと考えている。 ④非感染性ライブイメージング法の応用として、ヌクレオカプシドの輸送に関わる宿主因子を解明するために、今後は遺伝子サイレンシング法を用いて網羅的に解析を進める。さらにエボラウイルス以外のウイルスについても、ライブイメージングモデルを構築したい。具体的にはエボラウイルスと同様に出血熱を起こすBSL-4病原体であるアレナウイルス科のラッサウイルスを考えている。ヌクレオカプシドを蛍光タンパク質で標識することで、その形成・輸送過程を可視化したい。さらにこれらの過程を阻害する因子を同定することで、治療薬の開発に貢献したいと考えている。
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Research Products
(9 results)