2018 Fiscal Year Annual Research Report
大気-海洋間における難揮発性有機硫黄の相互作用に関する研究
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18J01782
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
坂田 昂平 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター 地球大気化学研究室, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 海洋エアロゾル / 有機硫黄 / XAFS法 / ICP-QQQ-MS |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では粒径を7分画して採取した海洋エアロゾル中の難揮発性有機硫黄に関する濃度および化学種に関する分析を行い、海洋における難揮発性有機硫黄の物質循環および気候に与える影響を明確化を目的とした研究を行なう。初年度は、エアロゾル中に含まれる水溶性有機硫黄に関する濃度定量法およびX線吸収微細構造(XAFS)法による硫黄の化学種分析時に生じる有機硫黄のX線損傷の対策法などを含めた分析法のに関する研究を中心に研究を行なった。 水溶性有機硫黄の濃度はトリプル四重極誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-QQQ-MS) を用いて定量した。ICP-QQQ-MSは硫黄濃度を測定する最適な装置の一つであるが、これまでエアロゾル中の硫黄の分析に応用された例は極めて少ない。しかし、本装置を用いることで簡便かつ迅速にエアゾロル中の水溶性硫黄濃度(無機物+有機物)の濃度定量が可能であることが明らかとなった。ICP-QQQ-MSを用いて定量した水溶性硫黄濃度から無機硫黄濃度(硫酸イオン濃度)を減算することで、エアロゾル中の水溶性有機硫黄濃度の定量が可能となった。本手法を用いて海洋エアロゾル中の水溶性有機硫黄濃度の分析を今後進める。 XAFS法による化学種の分析時にエアロゾル中に多く存在すると予想されている脂肪族有機硫酸塩が深刻なダメージ(X線による光還元)を受けることが明らかとなった。また、このX線損傷は(1)照射するX線の光量を減らすこと、(2)低温環境下での実験することにより低減できることも明らかとなった。また、有機硫酸塩は無機硫酸塩よりもX線損傷を受けやすく、試料中の硫酸塩化学種のX線損傷の有無から有機硫酸塩の存在を裏付けられる可能性があるため、今後検討を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、初年度の間にエアロゾル中の有機硫黄成分に関する分析法を確立することができた。試験的につくば市で採取した粒径分画エアロゾルの分析を行った結果、都市域でも水溶性有機硫黄が存在することが明らかになった。有機硫酸塩に関するX線損傷に関する対策法も確立され、実際の海洋エアロゾルの分析においても、これらの対策が効果的であることがわかった。また、硫黄の化学種解析を繰り返し行うと微細粒子中の硫黄のスペクトルが変化することもわかっており、このことからも有機硫酸塩がエアロゾル中に存在することが示された。これらの理由から本年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」とした
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Strategy for Future Research Activity |
2年度目は確立した分析法を用いてエアロゾル中の有機硫黄成分の分析に本格的に取り掛かる。ICP-QQQ-MSを用いたエアロゾル中の有機硫黄に関する研究はほとんど行われていないため、海洋エアロゾルのみでなく、これまでに都市域で採取したエアロゾルも合わせて分析を行い、エアロゾル中における有機硫黄の存在量を明らかにする。また、濃度定量と合わせてXAFS法による硫黄化学種の分析や走査型透過X線顕微鏡(STXM)を用いて、単一のエアロゾル中における硫黄や他の元素の化学種の分布から有機硫黄の生成過程などを明らかにすることを目的とした研究を進める。
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Research Products
(10 results)