2019 Fiscal Year Annual Research Report
かぐや探査データと月隕石の起源地域推定から解明する月火成活動の変遷
Project/Area Number |
18J01786
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
長岡 央 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 月隕石 / 起源地域 / 月探査データ / 火成活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は探査データと試料データを用いた統合サイエンスに基づき、月に広く分布する火山性領域(“海”と呼ばれる領域)の形成過程とその変遷を明らかにすることである。火成活動の評価には、月探査データと隕石試料の分析結果を組み合わせた統合科学的な手法を提案する。具体的には起源地域が定かでない月隕石について、月探査衛星の取得データと比較し、その起源地域を特定することで、試料と探査データを結びつけ、より詳細な地質評価を可能とする。
令和元年8月、本研究とは直接の関係のない第三者から、本研究で対象としている月隕石(NWA 773 clan)における新しい研究成果が発表されたことにより、本研究内容の新規性と議論内容について再検討が判明した。研究遂行上、月隕石の起源と形成史について、追加の検討・議論が不可欠なため、研究遂行計画を延長して実施する必要が生じた。本研究により、月隕石中から新たにデイサイト岩石片を発見した。この岩石片は結晶分別作用により非常にMgに枯渇したメルトから出来た不混和メルトに由来することがわかった。これらの研究成果は、2020年3月に査読付きの英文誌(Progress in Earth and Planetary Science)に掲載された。先行研究や本研究から新たに得られたNWA 773 clanに含まれる岩石片の化学組成や鉱物組織から、月隕石が経験した火成活動の変遷や衝突履歴をまとめ、月面上での起源地域推定に必要となる情報を抽出した。上記から得られた情報は月隕石NWA 773 clanの起源クレータ推定に活用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では月火成活動の評価に、月探査データと隕石試料の分析結果を組み合わせた統合科学的な手法を提案した。月隕石NWA 773 clan中から発見されたデイサイト岩石片の記載や起源、その形成過程をまとめ、研究成果は査読付英文誌に掲載された。本研究から新たに得られた月隕石NWA 773 clanの経験した火成活動の変遷や衝突履歴は、月面上での起源地域推定の際に重要な情報となる。これらの新たな研究成果も含めて、月探査データと月隕石の分析結果を比較することで、月隕石の化学的特徴や形成過程を説明可能な地質的特徴を持つ領域や衝突クレーターを月面上で推定した。
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Strategy for Future Research Activity |
遠隔探査では得られない月隕石の詳細な元素情報や岩石・鉱物情報と、探査データから得られるマクロな地質情報を比較し、より詳細に起源地域の地質評価を進める。NWA 773 clan以外の起源地域が定かでない月隕石についても、本研究で用いた手法を随時適用し、起源地域推定を進める。 月隕石の起源地域、起源クレータを特定することは、その場所からのサンプルリターンと同等の価値をみいだすことができ、より多くの月隕石情報を基に火成活動の成因やその変遷を評価する。また未探索の場所が明確化されることで探査機を送る能動型探査の価値をさらに高めることができる。今後の月探査ミッションの科学検討において、本研究成果を通して得られた月科学の知見を活かし、課題点と具体的な探査項目の議論に主体的に参加していく。
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Research Products
(4 results)