2019 Fiscal Year Annual Research Report
超微量タンパク質絶対定量法によるがん関連シグナル伝達系の包括的プロファイリング
Project/Area Number |
18J01791
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
益田 恵子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 無細胞タンパク質合成 / 質量分析 / 絶対定量 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の無細胞タンパク質合成法と質量分析を用いたタンパク質絶対定量法(MS-QBiC法)では、安定同位体標識内部標準として、定量ターゲットペプチドの上流に精製用タグと定量用タグを付加したペプチド(MDYKDDDDKLLLLK-LVTDLTK-XXXXXXK)を用いる。昨年度までに、34種類の定量用タグ(LVXXLTK)を新たに構築し、内部標準ペプチドの多重合成およびターゲットペプチドの多重定量が可能となり、スループットを35倍以上に向上させた。本年度は、改良したMS-QBiC法を用いて大腸菌リボソーム30Sサブユニットの構造学的な定量解析を行った。大腸菌リボソーム30Sサブユニットは、分子量約8,000~60,000の21種類のタンパク質から構成される複雑な構造体である。まず、21種類の各リボソームタンパク質から複数の定量ターゲットペプチドを選別し、新規定量用タグ34種類を用いて合計68種類の内部標準ペプチドをデザインした。定量用タグの異なる34種類の内部標準ペプチドを1セットとして、無細胞タンパク質合成法によりワンポットで合成したところ、全てのペプチドを得ることができ、収量の少ないものと多いものの差は概ね10倍以内であった。それを用いて、大腸菌から単離された30Sサブユニットを定量し、21種類のリボソームタンパク質の構成比を調べた。さらに、共同研究として、組み換えリボソームタンパク質を用いて人工的に組み上げられた30Sサブユニットのストイキオメトリを調べた。サブユニットが形成される際にはそれぞれのリボソームタンパク質が段階的に結合することがわかっており、様々な生合成因子がその形成を補助することが知られている。そこで、各リボソームタンパク質や生合成因子の添加条件を変えて組み上げられた様々な30Sサブユニットを用いて、サブユニット形成の動態を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
無細胞タンパク質合成法と質量分析を用いた絶対定量法は、安定同位体標識内部標準ペプチドの調製量をフェムトモルオーダーに抑えた極めて安価で簡便な定量法であり、昨年度の改良によって35種類のペプチドの多重定量が可能となった。本年度は、改良した定量法を用いることで21種類のタンパク質から構成される複雑なリボソーム30Sサブユニットをハイスループットに測定することができ、再構成メカニズムに関する詳細な解析を行うことができた。また、共同研究として、肺動脈性肺高血圧症などの循環器系疾患の創薬ターゲットであるエンドセリン受容体の結合能の評価系を構築した。さらに、別の共同研究において、様々ながん細胞の増殖や転移に関与するヒト上皮細胞増殖因子受容体(EGFR、HER2、HER3)をターゲットとして、マウスゼノグラフトのホルマリン固定パラフィン包埋切片の分析にも着手した。今後、病理診断や薬剤開発への発展が見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、リン酸化ペプチド用の内部標準ペプチドを調製可能とするために、PUREシステムに古細菌のシステムを導入する。古細菌ではCys-tRNA合成の中間体としてリン酸化Ser(Sep)-tRNAが合成されることが知られており、この機構を大腸菌発現系に組み込むことでタンパク質の部位特異的Sep導入法が確立されている(Park et al., Science, 2011)。このSep導入法をPUREシステムに応用するために、Sep-tRNA合成酵素、それに対応したtRNA^Sep、Sep-tRNAをリボソームへ運搬するための翻訳伸長因子EF-Tuを調製する。さらに、Sep導入率を最大化するために、PUREシステムに導入する各種因子の投入量の最適化を行う。また、Sep以外のアミノ酸残基が誤導入された場合は翻訳が終結するように、4塩基コドンをデザインして翻訳フレームシフトを利用する。その後、キナーゼや転写因子等の定量ターゲットをデータベースから選別し、それらの内部標準ペプチドを改良したPUREシステムにより合成し、培養細胞株(HEK293T、CHO、AtT-20)を用いて各因子のリン酸化プロファイルを構築する。
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