2018 Fiscal Year Annual Research Report
食品機能成分の腸送達システムを指向したW/O/Wエマルションの冷凍保存技術の開発
Project/Area Number |
18J01966
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
宮川 弥生 京都学園大学, バイオ環境学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | W/O/Wエマルション / 冷解凍 / 分散安定性 / 機能性物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,水溶性の機能性食品成分を人の小腸に送達するシステムの構築を指向し,温度およびpHの変化が,Water-in-Oil-in-Water(W/O/W)エマルションおよび内包される機能性成分の安定性に及ぼす影響の評価に取り組む.本年度は,W/O/WおよびO/W(Oil-in-Water)エマルションの形態をとる市販の食品を対象とし,冷凍時の凍結挙動および冷解凍に伴う油水の分離挙動を比較した.検討対象の試料は大きく3つに分類される.すなわち,W/O/W型のマヨネーズ風ドレッシング(以下,W/O/Wエマルション),O/W型のマヨネーズ風ドレッシング(以下,O/Wエマルション)およびマヨネーズである.マヨネーズ風ドレッシングは,マヨネーズより含油量が少なく増粘剤等を含む. マヨネーズを冷凍すると,油相が結晶化し,それに伴い油水が完全に分離した.油相の結晶化がエマルションを不安定化させるという既往の研究と同様の結果を得た.一方,W/O/WおよびO/Wエマルションでは,油相は結晶化したが,著しい油水の分離は目視では観察されなかった.しかしながら,油相が結晶化した試料を遠心分離したところ,油水の分離が観察され,ほぼすべての油相が分離したことが推測された. これらの結果より,W/O/Wエマルションは,O/Wエマルションと同様に,油相の結晶化により不安定化することが示唆された.この知見は,油脂の結晶化の抑制が,分散安定性を維持する上で重要であることを示し,学術的に有意義である.また,W/O/Wエマルションは,冷解凍を経ると実際には不安定化が進行するが,外見上の安定性はある程度維持されることを示した.この知見は,常温で分散安定性の高いW/O/Wエマルションは,冷凍流通を想定した場合においても,外見上の品質を維持できる可能性を示し,本研究をさらに進展させていく上で有益である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度では,W/O/Wエマルションの調製条件の決定および分散安定性の評価手法について検討する予定であったが,エマルションの調製および油滴径の測定に必須である,乳化機器および粒度分布計の使用が困難であった.そこで予定を変更し,市場で流通している分散安定性の高いW/O/Wエマルションを用い,冷解凍時における水相および油相の結晶状態を検討するとともに,結晶化が分散安定性に及ぼす影響を評価した.その結果,冷解凍操作に対して安定なW/O/Wエマルションは,常温における安定性が十分高く,かつ油相が結晶化し難い特性を有する必要があることが示唆された.研究計画の順序を変更したが,冷解凍操作に対して安定なW/O/Wエマルションを調製する因子を明らかにした.これらを踏まえ,現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると評価した. さらに追加して,常温における分散安定性の高いW/O/Wエマルションを調製する条件について検討することとした.一般に,W/O/Wエマルションの不安定化の主因は,内水相の水分子の外水相への移動(油相透過)である.機能性食品成分のモデル物質としてベタニンを使用し,その安定性の変化から,油相透過の影響を評価することとした.ベタニンは実験系で汎用される色素であるため,化学的特性が明らかである.しかしながら,pHや温度がベタニンの分解速度に及ぼす影響については詳細が明らかでない.そこで,ベタニンの分解速度に関する基礎的なデータの収集に着手した.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,W/O/Wエマルションの組成と冷凍保存温度が,エマルションと封入した機能性食品成分のモデル物質の安定性に及ぼす影響を実験的に明らかにする. 平成30年度では,市販W/O/WのおよびO/Wエマルションの冷解凍操作に対する分散安定性の変化について検討した.この検討の結果,常温で分散安定性の高いW/O/Wエマルションを調製することが,W/O/Wエマルションを冷凍流通させる上でも重要であることが示唆された.令和元年度では,W/O/Wエマルションの分散安定性を評価するために,内包する機能性成分のモデル物質の安定性を評価する予定である.そこでまず,pHや温度が機能性食品成分のモデル物質(ベタニン)の安定性に及ぼす影響について評価する.この検討により得られた知見に基づき,常温におけるW/O/Wエマルションの不安定化の主因である,プロトン移動(油相透過)とベタニンの安定性の関係性について検討する.W/O/Wエマルション中におけるベタニンの安定性を評価する汎用的な方法は確立されておらず,技術的な困難が予測されるため,まず,W/O/Wエマルションの,内水相ー油相ー水相の構造を模倣した系におけるベタニンの安定性を評価する.この検討により,研究計画当初より予定していた,常温およびヒトの消化過程におけるW/O/Wエマルション安定性に関する知見を得る.
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