2018 Fiscal Year Annual Research Report
活性化型Rasへの合成致死性因子の探索とその臨床応用を指向した創薬研究
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18J02157
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
熊崎 実南 国立研究開発法人国立がん研究センター, 細胞情報学分野, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 活性化型Ras / 組織特異性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、組織ごとの発がんに関するRasの下流経路を明らかにし、Rasのシグナル経路を標的とした有効な治療薬の候補を同定することである。Ras遺伝子は、K-Ras、H-Ras、N-Rasの3つのアイソフォームが存在し、多くのがんでその活性化型変異が認められている。がん遺伝子の活性化型変異は、がん発生過程においてドライバー遺伝子として働くことが古くから注目されており、EGFR遺伝子変異を有する肺がんに対するゲフィチニブや融合遺伝子BCR-ABLを有する白血病に対するイマチニブのように、特定の変異を標的とした分子標的治療薬が開発され臨床の場で広く普及している。申請者が注目するRasタンパク質に関しては、近年、国内の研究グループからX線結晶構造解析により活性化型のがん化シグナルを遮断する化合物が同定されている。また、直接的にRasを標的とした薬剤のみならず下流の増殖シグナルを標的とした阻害剤の開発例が報告されつつあるが、臨床応用に至った薬剤は存在しない。活性化型Ras変異体を阻害する分子標的型薬剤の開発・普及が遅れている理由として、発がんの過程において変異が生じるRasアイソフォームが組織ごとに異なることが挙げられる。つまり、各組織でRasアイソフォームに機能の一致・差異が存在することが予想される。そこで、本研究では各組織においてRasアイソフォームの機能および相互作用因子を明らかにすることで、新たな治療標的分子を探索する。また、低分子化合物ライブラリーを用いて、それらの標的分子群に対する阻害剤を同定することで、Ras変異体を持つがん細胞のみを標的とした新規治療薬の開発へとつなげる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
作製した変異型Rasにおいて、本実験計画で使用するいくつかのヒト正常上皮細胞へ感染させ、タンパク質を抽出しウエスタンブロット法によりRasの発現レベルを確認した結果、定常状態と比較して発現増加が認められたためこの手法により作製したレトロウイルスベクターを以後実験に使用することとした。最終的には、5種類のヒト正常上皮細胞を使用する予定であるが、実験系が計画通りに進行するかを確認するためヒト正常気管支上皮細胞及びヒト正常肺小気道細胞の2種類の細胞株における変異型K-Ras、H-Rasの細胞生存数、細胞形態への影響を評価した。2種細胞株へ変異型K-Ras、H-Rasのウイルスベクターを感染させ、感染後3日目でピューロマイシンの添加を行い、3日ごとに培養メディウムを交換し、感染細胞のセレクションを継続した。感染後4日、7日、10日目においてトリパンブルー色素排除試験法により細胞生存数を測定し、同時に細胞形態の観察を実施した。その結果、2種細胞株間では各変異型Rasの感染により異なる細胞生存数を示すことが分かった。ヒト正常気管支上皮細胞においては、変異型K-Ras及びH-Rasを感染させた細胞は継時的に細胞数が増加した。一方、ヒト正常肺小気道細胞ではK-Rasを感染させた細胞は継時的な細胞数の増加が見られたが、変異型H-Rasを感染させた細胞では7日目以降から細胞数が減少し、その後細胞の増殖は停止した。細胞の形態学的変化については、K-Rasを感染させた細胞ではコントロール細胞と比較して大きな変化は観察されなかったが、H-Rasを感染させた細胞では、細胞が肥大化し老化細胞様の形態学的変化を示した。特にその変化はヒト正常肺小気道細胞において顕著に認められた。これまでの結果から、変異型Rasは組織により異なる表現型を示す可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、変異型Rasの感染によりタンパク質発現レベルでのRasの過剰発現を確認したが、免疫染色法により変異型Ras感染細胞の割合についても詳細に確認していく。また、変異型Rasの感染により生存が認められた細胞が造腫瘍性を有するかどうかについても、ソフトアガーアッセイにより検証する。残りの細胞株においても同様のプロトコルにより変異型Rasの感染、細胞生存数の測定、細胞形態の観察を実施する。最終的には、5種類のヒト正常上皮細胞株間でこれらの違いと、Ras下流シグナル経路への影響をウエスタンブロット法を用いて検証し比較する予定である。 当初は、既に活性化型Rasを有するがん細胞株を使用する予定であったが、変異型Rasの機能をより詳細に検討するために不死化したヒト正常上皮細胞を用いることにした。いずれの不死化細胞株も、安定培養及び変異型Rasの感染も可能であることを確認し実験に使用する細胞株を変更することにした。
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