2019 Fiscal Year Annual Research Report
心不全における細胞老化誘導機構の解明と老化細胞を標的とした新規治療法の開発
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18J02247
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
熊澤 拓也 奈良県立医科大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 細胞老化 / 核小体 / rRNA / SASP / 心不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
世界中でも多数の人が命を落とす原因となっている心不全は発症機序に不明点も多いため、発症の分子機序を解明し、新規治療法を開発することが期待されている。最近、心不全増悪への癌抑制因子p53の関与が示唆されつつある。心不全を発症するようなストレス負荷時にはp53が活性化し、細胞老化が誘導される。老化細胞にはSASPと呼ばれる特徴があり、炎症性サイトカインや増殖因子、マトリックスメタプロテアーゼ等の生理活性物質を分泌している。つまり、加齢や生活習慣に伴うストレスが心臓内の老化細胞を増加させ炎症反応の亢進を介して心不全を引き起こす、もしくは悪性化させていると考えられる。申請者はこれまでに、核内構造体である核小体がストレスの種類に応じて自身の大きさを変えることによりアポトーシスや細胞老化といった細胞の運命決定を行っていることを発見している。本研究では、心不全における核小体を介した細胞老化機構の解明と制御を目的としている。 本課題において申請者は、心不全モデルマウスの心臓組織内において核小体が肥大化した心臓線維芽細胞の老化細胞が蓄積していること、ROSが増加していることを明らかにした。ROS誘導剤を用いた細胞実験より、ROSがrRNAの転写を亢進させることによって核小体の肥大化・細胞老化を誘導することも明らかにした。さらに、NACを投与した心不全モデルマウスでは細胞老化の誘導、核小体の肥大化、rRNAの転写亢進が部分的に抑えられていた。また、心不全のモデルマウスにおける心重量の増加や、心機能の低下に関してもNACの投与で部分的に改善することが明らかとなった。 心不全モデルマウスに老化細胞特異的な細胞死誘導化合物を投与し、心臓における老化細胞の蓄積や核小体機能、心臓機能、予後へ与える影響について検討した。その結果、コントロールと化合物を投与した群で傾向は見られたものの有意な差は見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題では以下のような年次計画を予定していた。 (申請時点から2年目まで)①-a. ROS誘導剤添加時の心臓線維芽細胞における細胞老化や核小体機能の解析 ①-b. NACによるROS抑制時の心臓線維芽細胞における細胞老化や核小体機能の解析 ①-c. 老化心臓線維芽細胞による心筋細胞へのパラクライン的肥大作用の解析 ①-d. NAC投与時の心不全モデルマウスにおける細胞老化や核小体機能の解析 ①-e. 心不全患者の心臓における老化細胞と核小体サイズの解析 ②-a. 心筋細胞と心臓線維芽細胞を用いた化合物のスクリーニング ②-b. 心不全モデルマウス心臓の老化細胞、核小体への化合物の効果 ②-c. 心不全モデルマウスの心臓機能、予後への化合物の効果 (3年目)①-f. NAC投与時の心不全モデルマウスにおけるrRNA転写と心機能の解析 ①-g.心不全患者の心臓におけるrRNA転写とプロセシングの解析 実際には2年度目までの計画に加えて①-f)の解析まで着手することができた。さらに、当初は計画になかったが、海外渡航制度を利用してハーバード大学マサチューセッツ総合病院のZhixun Dou研究室との共同研究を開始し、老化モデルマウスを用いた解析にも着手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1-A. 心不全モデルマウスを用いた解析) 前年度に引き続き、心不全のモデルマウスにNアセチルシステイン(NAC)を腹腔内投与してROSを抑制した時の心臓における老化細胞の蓄積、核小体の肥大化、rRNAの転写量、心重量、心機能について検討する。心エコーやANP、BNPの発現量の定量により心機能を評価する。 1-B. 心不全患者の心筋生検サンプルを用いた解析) 申請者の研究室では心不全患者の心筋生検サンプルを多数保有している。前年度に引き続き、それらのサンプルを用いて、老化細胞の蓄積や核小体機能を解析する。さらに、rRNAの転写・プロセシングが変化する上流のシグナルについても解析する。加えて、これらの心不全患者の心機能や予後と老化細胞・核小体サイズとの相関関係を検討する。 1-C. 老化モデルマウスを用いた解析) ハーバード大学マサチューセッツ総合病院のZhixun Dou研究室との共同研究により、薬剤誘導によって老化細胞を除去できる遺伝子改変マウス、老化が誘導されるBubR1 KOマウスを用いて、老化における心臓機能と核小体、ROSの関係を解析する。これらのマウスにおける核小体機能を評価するとともに、核小体肥大による細胞老化誘導・心不全モデル手術・NAC腹腔内投与を行った時の心機能を検討する。 2. マウスの心臓における化合物効果の検討) 今年度は心不全モデルマウスや先に挙げた老化モデルマウスに化合物を投与し、心臓における老化細胞の蓄積状況や核小体サイズ、アポトーシス誘導効果を検討する。また、化合物のrRNA転写・プロセシングに与える影響についても解析する。さらに、化合物投与による心臓機能や予後への効果を調べて、核小体の人為的な制御が疾患の治療につながるか検討する。
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[Journal Article] AST-120, an Oral Carbon Absorbent, Protects against the Progression of Atherosclerosis in a Mouse Chronic Renal Failure Model by Preserving sFlt-1 Expression Levels.2019
Author(s)
Nakada Y, Onoue K, Nakano T. Ishihara S, Kumazawa T, Nakagawa H, Ueda T, Nishida T, Soeda T, Okayama S, Watanabe M, Kawakami R, Saito Y.
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 9
Pages: 15571
DOI
Peer Reviewed / Open Access