2018 Fiscal Year Annual Research Report
動物の個性と寄生者の感染に着目した種間交雑の生起メカニズム解明
Project/Area Number |
18J10096
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渥美 圭佑 北海道大学, 環境科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 種間交雑 / メスの装飾 / 動物行動 / 種認識 / 動物の個性 |
Outline of Annual Research Achievements |
交雑は,生物の絶滅,新種の誕生の双方を促進するプロセスであるため,交雑が生じる原因の理解は進化学・生態学の重要課題である。これまでの研究では,交雑が起こる原因を外部環境の変化で説明してきた。これに対し私は,交雑の起こしやすさは個体によって違うと考えるようになった。本研究では,「大胆な性格をもつ個体は,状況の判断が速いがその正確性に欠けるため,配偶者選択でのミスが多い」とされることから導いた,「大胆な個体ほど他種を繁殖相手に選びやすい」とする仮説(テーマ1),「寄生者に感染した個体では,異性の探索が難しくなるために配偶者選択で妥協するようになる」ことから導いた,「寄生者に感染しコンディションの悪くなった個体が他種を繁殖相手に選びやすい」とする仮説(テーマ2)の2つを,北海道で交雑することが知られている淡水魚ウグイ類・トミヨ類で検証する。 平成30年度は、ウグイ類でのお見合い実験を進めた。これにより、ウグイのオスが同種メスを見た目に基づいて好むことが明らかになった。この結果は英文誌で査読中でる。この研究により、ウグイ類での実験系の立ち上げが完了した。また、個性ー交雑の関連性の解明に先立ち、動物の個性の概念やその生態的な波及効果についての単著の和文総説を書いた。現在、他の著者と共同で、特集号として投稿準備中である。 トミヨ類においては、交雑の実態を把握するため、札幌市に複数ある淡水型・エゾトミヨの分布重複域とその近傍で魚体を捕獲した。逐次DNA分析を進める予定である。 本研究の概念的な中心部分である、交雑の起こりやすさの個体差や状況依存性について、動物の配偶者選択や種間交雑の起こるメカニズムに造詣の深い海外研究者(Gil G. Rosenthal教授、米国・テキサス農工大学)を2か月弱訪れて、有益な議論を進めることができた。現在、総説論文の投稿に向けて準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウグイ類の行動実験は、実験条件の難しさから予定していたものより実験規模は小さかったが、当初の目的である「メスの見た目に基づいたオスの同種への好み」の実証データ、および「オスの個性と同種メスの好みの関連」を示唆するデータを得ることができた。前者については学会発表をするとともに論文化を進めていて、現在英文誌のMajor revisionの段階にある。また、「動物の個性」に関する総説論文を執筆し、日本生態学会誌に投稿中である。よって、ウグイ類に関連したテーマでは、計画通りではないものの研究は順調に進んでいる。トミヨ類ではまだ行動実験が行えておらず、計画から遅れている。 本研究以外では、海外研究者とのメタ解析による共同研究、本研究の概念的な中心である「交雑の起こりやすさの個体差、状況依存性」についての総説論文の準備などを進めており、当初の計画以上に研究は進んでいる。 以上を総合的に鑑みると、研究はおおむね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
野外調査・行動実験・遺伝子実験を行う。対象生物の繁殖期である春季(当年4月ー当年度7月)に,テーマ1に関するウグイ類の飼育実験(北大苫小牧研究林),トミヨ類の交雑帯(札幌・千歳)での野外調査を進める。ウグイ類での前年度での結果をまとめた論文は査読結果をすでに得ているため、原稿の改訂を進める。実験シーズンが終わり次第、今年度の実験結果に基づいた論文を作成する。トミヨ類については、前年度に遺伝子サンプルが得られたため、今年度はその分析を行う。遺伝解析には次世代シーケンサーを用いるのが最も効率的だが,解析には高度な技術を要するため,国内の専門家との共同研究を予定している。一連の研究の成果は,国内外の学会で議論するつもりである。 今年度に博士課程を卒業する予定であるため、ウグイ類・トミヨ類での実証研究や準備中の総説論文などをまとめた博士論文を、秋・冬季に執筆する。 今年度に予定していた北米テキサスへの渡航は、昨年度末に達成できた。その際に作り上げたコネクションを利用し、研究内容・結果について海外の研究者と議論することを通じて,投稿論文の質を一層高めると同時に,本研究完了後の展望についても考えを深めたい。
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