2018 Fiscal Year Annual Research Report
反応経路自動探索法の周期系への拡張と結晶の特性予測
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18J10122
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高木 牧人 北海道大学, 大学院理学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 結晶構造予測 / 量子化学計算 / 反応経路自動探索 / 人工力誘起反応法 / 速度論的安定性 / リン光 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はこれまで反応経路自動探索法の1つである人工力誘起反応法を周期系に拡張したPBC/AFIR法の開発を進めてきた。本手法を用いることで、結晶構造や反応経路の自動探索が可能である。本研究ではこの手法の応用として、①構造データリストの構築および物性に基づく構造の検索を行った。また、本手法と孤立系で用いられている手法組み合わせることで、これまで結晶などの周期系で評価の難しかった②材料の速度論的安定性や③材料の発光能について評価を行なった。 ①PBC/AFIR法により炭素の結晶構造探索を行い、さらに物性の計算を行うことで物性を含む構造データリストの構築を行った。探索の結果14265個の構造が得られ、これらに対しバンドギャップなどの計算を行った。データリストを物性に基づいて検索することで、新しい構造を発見した。本手法によって得られるデータ量は膨大であり、マテリアルズインフォマティクスにも有用であると考えられる。 ②速度論的安定性を議論するためには、崩壊経路の網羅探索も必要になる。本研究では、理論予測されている炭素結晶Cco-C8に対し崩壊経路の系統的探索を行った。その結果4907本の経路が得られ、最速崩壊経路の反応障壁も十分に大きいため、合成することができれば十分安定に存在することが予測された。 ③材料が光るかどうかを議論するためには、無輻射失活経路の網羅探索が必要である。本研究では孤立分子系で用いられている手法と本手法を組み合わせ、ベンゼン結晶の無輻射失活経路を網羅探索し、リン光能の評価を行った。その結果、最も到達しやすい交差構造への反応障壁は0.26 eV程度であり、低温ではリン光を示すが、常温ではリン光を示さないという実験とも一致する結果が得られた。 このように周期系でも崩壊経路やポテンシャル交差領域を網羅探索することで速度論的安定性や材料が光るかどうかの評価が可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標であるPBC/AFIR法を①周期系での速度論的安定性の評価と②周期系でのポテンシャル交差領域の探索への拡張を行なった。 ①材料の速度論的安定性の解析について、当初予定していた通りにPBC/AFIR法と孤立系で使われている手法を組み合わせることは問題なくプログラムに実装できた。これにより、材料の崩壊経路を効率的かつ系統的に求めることが可能になった。適用例としては、これまで理論計算でのみ予測されている炭素結晶構造(Cco-C8)に本手法を適用することで、崩壊経路の網羅探索を行い、その中の最小エネルギー崩壊経路からこの構造の寿命を見積もった。 ②材料の光物性の解析についても当初の予定通り、PBC/AFIR法と孤立系で用いられている手法の組み合わせは問題なく実装できた。これにより、固体系でもポテンシャル交差領域の網羅探索が可能となった。開発した手法の適用例としてベンゼン結晶の一重項基底状態と三重項基底状態のポテンシャル交差領域を探索し、実験結果と矛盾しない結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
高圧条件下では常圧では取り得ない高密度結晶構造が存在する。このような構造を実験で直接観測することは難しい場合が多いため、理論計算による結晶構造探索が期待されている。エネルギーに圧力と体積の積を加えた擬似的なエンタルピーを考え、この関数上をPBC/AFIR法を用いて探索することで、圧力をかけた状態での構造探索、反応経路探索が可能である。現在はこの圧力の扱い方をプログラムに実装し、テスト計算を行なっている。まずは炭素結晶や氷への適用を行い、その後に超高圧の地球のマントルに含まれているとされているSiO2やMgSiO3、CaSiO3などへの適用を行なっていく予定である。 また、この関数では高い圧力を印加すると、密度の高い構造を優先的に探索することができる。一方で、(物理的には意味がないが)圧力の値を負にした関数では密度の低い構造を優先的に探索することが可能である。現在こちらに関してもテスト計算を行なっている。 さらに、結晶構造だけでなく、圧力の印加による反応経路の変化についても検討を行なっていく。これにより、圧力による熱力学的安定性の変化だけでなく、反応経路(反応速度)の変化を考慮した議論が可能になると考えられる。まずは圧力相転移が知られているリンの結晶に本手法を適用する。その後より複雑な、Bis(ethylenedithio)tetrathiafulvalene (BEDT-TTF)塩への適用を行う。
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Research Products
(8 results)