2018 Fiscal Year Annual Research Report
両立不可能性と一般確率論を用いた量子論の数理的研究
Project/Area Number |
18J10310
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
浜村 一航 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | 量子論基礎 / 量子測定理論 / 両立不可能性 / 情報と擾乱の関係 / 一般確率論 / CHSH不等式 / 情報因果律 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は量子論の構造を数理的に明らかにすることである。量子論は数学的な対象であるヒルベルト空間を前提として理論が構築されているため、より物理的な理論を基礎として理論を構築したいということは100年近く前から共有されている問題意識である。特に近年進展している両立不可能性や一般確率論といった操作的かつ一般的な観点から量子論の性質を明らかにすることがこの研究の目的である。また、基礎的な議論のみならず、両立不可能性や一般確率論といった理論を応用することも検討することも目標としている。 そこでまず今年度は次の研究を実施した。量子論の合成系はヒルベルト空間のテンソル積によって与えられるが、これは一般確率論の立場からは自明ではない。本研究においては特に物理的に自然な仮定のみからでは合成系は一意に定まらないことを指摘し、量子状態側では多く議論されているエンタングルメントが物理量側にも存在することが合成系の候補を限定することを明らかにした。さらに、物理量のエンタングルメントを検出する手法を提案した。最後に、この不等式の破れをIBMが提供するクラウド量子コンピュータを用いて実験的に検証し、物理量のエンタングルメントの存在を確認した。 量子状態のエンタングルメントの存在を示すBell-CHSH不等式の破れは、量子論においては2√2が上限である。一般確率論においては瞬間伝送禁止則のみからではこの2√2という値は現れず4に到達する理論が存在するが、情報因果律という規則を課すことによって再び2√2という上限が復活する。二者間の関係のBell-CHSH不等式を三者に拡張したものがCHSHモノガミー不等式と呼ばれている。情報因果律からCHSHモノガミー不等式が導出できるかどうかについて研究を行ない、特にisotropicなモデルの場合は情報因果律からCHSHモノガミー不等式が導出できることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
物理量のエンタングルメントに関する結果は、Phys. Lett. A 382 (36) (2018)で出版しており、また国際会議や研究会で発表し、多くの研究者と議論している。 また、情報因果律とCHSHモノガミー不等式の関係に関する結果の一部を3月の日本物理学会第74回年次大会において発表し、他の研究者と議論を行なった。この内容は来年度に論文としてまとめ出版するために準備中である。 また、今年度に実施したIBM東京基礎研究所におけるインターンシップでは、物理量のエンタングルメントに関する結果のチュートリアルの作成と量子コンピュータのアルゴリズムに関する研究を行なった。インターンシップにおける研究成果は特許出願予定/中であり、また論文として投稿する準備をしている。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で報告した通り、現時点で出版可能な研究成果がいくつかあるので、それらについて論文としてまとめできる限り早期に出版できるようにしたい。 他にも状態識別能力と擾乱の関係に関する論文を投稿予定である。 また、今後の研究としては量子コンピュータで量子論の基礎を検証したり、量子論基礎における研究成果を量子コンピュータに応用する研究をさらに進展させていく予定である。
|