2018 Fiscal Year Annual Research Report
The nature of the World of Song Dynasty and its territorial periphery
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18J10336
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
遠藤 総史 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 宋朝 / 東南アジア / 海域世界 / 朝貢 / 冊封 / 国際関係 / 国際公共財 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に宋代冊封・朝貢の実態的特徴とその地域史的意義に関する研究を行った。近年、主に日本の東アジア近代史において、冊封・朝貢を従来の様な体系的なシステムとして捉えるのではなく、交渉などの「実態の場」における駆け引きに注目して、これまで見落とされてきた冊封・朝貢の実態としての特徴を明らかにしようという研究の方向性が提示されている。本研究は、このような日本の東アジア近代史における冊封・朝貢研究の動向を参考に、宋代の朝貢を実態面から再検討し、その上で宋代朝貢が宋朝と南の海域世界との間で持った政治・経済的意義を分析したものである。具体的には、宋朝と東南アジアを含む「南の海域世界」との関係を中心に、朝貢の際に提出される上表文の「翻訳」という行為に注目し、上表文の翻訳過程や翻訳者の実像、翻訳前の上表文の文字・言語について考察を進めた。そして一連の考察を通して、宋朝と南の海域世界との関係では海商のような媒介者のイニシアティブが強く、媒介者が朝貢の中華的理念を利用し、上表文の翻訳などの場において意図的に「書き替え」を行うことで、結果的に朝貢が宋朝と南の海域世界を繋ぐある種のインフラとして機能していたと指摘した。以上の研究内容は、中日古代中国社会文化史学術検討会(中国・広州、中山大学、2018年10月)とThe 4th Congress of the Asian Association of World Historians.(大阪、大阪大学、2018年1月)、第19回遼金西夏史研究会大会(滋賀、龍谷大学、2019年3月)で報告した。さらに、上記の研究と自身のこれまでの研究を元に中越関係史における冊封・朝貢関係を再検討した報告を、シンポジウム歴史の中の中越関係(東京、東京外国語大学、2018年12月)で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究テーマ「南宋成立期における天下理念の再編」を完成させるとともに、台湾・中央研究院において在外研究を開始し、中国・台湾での研究状況の把握と当地研究機関での史料調査を行う予定であった。しかし、当初の予定よりも研究が進展したために、台湾・中央研究院で在外研究を行いながら、以下二点の様に研究が進捗した。 第一に、上述のような新たな研究テーマ「宋代の朝貢と翻訳」を扱うことができた。当研究の進展もまた著しく、上述のように国内外の研究会・学会等で成果報告をすることができた。さらに、中国・広州の中山大学にて成果報告を行った際には、同大学に所属する謝湜教授より学術誌『歴史人類學學刊』(中国、中山大学歴史人類学学術中心ほか)への投稿を依頼されている。 第二に、共著という形式で、英文論文“Recent Japanese Scholarship on the Multi-State Order in East Eurasia From the Tenth to Thirteenth Centuries.” ( Journal of Song-Yuan Studies 47, 2017-2018, pp. 193-205.)を発表することができた。当論文は、近年の日本の研究界における「10~13世紀の東部ユーラシアの国際秩序」に関する研究動向をまとめ、世界的に発信することを目的としたものである。当論文中では、自身の既出論文である「未完の統一王朝」(『史学雑誌』126-6, 2017, pp. 36-61.)を紹介した。また、当初今年度の研究課題とする予定であり、研究の進展によって昨年度3月に既に発表することとなった「南宋期における外交儀礼の復興と再編」(『南方文化』44, 2018, pp. 1-23.)についても、当論文中で紹介することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、8月末日まで台湾・中央研究院での在外研究を継続する。昨年度は、新たに設定した研究テーマ「宋代の朝貢と翻訳」を集中的に取り扱ったため、当初予定していた台湾の学術機関での資料調査については必ずしも十分ではなかった。そのため本年度は、台湾・中央研究院での在外研究を継続し、資料調査を中心に行う予定である。また、これに平行して研究テーマ「宋代の朝貢と翻訳」の成果報告、及び論文発表を行う予定である。これについては、まず台湾・臺灣師範大學で開催される「宋代史座談會」(台北、2019年4月)において研究報告を行う。次に、現在投稿中である学術誌『歴史人類學學刊』(中国、中山大学歴史人類学学術中心ほか)から中文で論文を発表する予定である。さらに、『待兼山論叢』(大阪、大阪大学)等の国内学術誌に投稿し、日文での論文発表も行おうと考えている。 9月以降は日本に帰国し、大阪大学にて研究テーマ「宋徽宗期における天下理念の拡大とその諸要因」を中心に扱っていく。当研究テーマは、宋徽宗期における「政和の官制改革」や北辺での国際情勢の変動を背景に、従来の「未回収の中国(=節度使)」に対する実効支配というタテマエ上の前提が崩れ、それによって宋朝の天下の「周辺」は完全に理念的な存在となって南方に拡大したことを明らかにするものである。当テーマについては、一昨年度より断続的に研究を行っており、既にいくつかの研究会で部分的に成果報告を行っている。そのため、帰国後は台湾・中央研究院での在外研究中に得た研究成果をまとめて当研究テーマを完成させ、可能な限り早急に「海域アジア史研究会」(大阪、大阪大学)等の研究会で成果報告を行う。その上で、年度内中に『東方学』(東京、東方学会)等の国内査読誌に投稿しようと考えている。
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