2018 Fiscal Year Annual Research Report
カワゲラ目の比較発生学的研究:多新翅類の系統進化像の再構築
Project/Area Number |
18J10360
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
武藤 将道 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | 昆虫比較発生学 / 系統進化 / グラウンドプラン / 多新翅類 / カワゲラ目 / トワダカワゲラ科 / 胚運動 / 肥厚漿膜細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、カワゲラ目の系統学的位置の解明・グラウンドプランの再構築に向け、キタカワゲラ亜目の比較発生学的検討を中心課題に設定し、以下の二点の特筆すべき研究実績を得た。 一つ目は、日本産キタカワゲラ亜目全9科、すなわち完舌類のトワダカワゲラ科、シタカワゲラ科、ホソカワゲラ科、クロカワゲラ科、オナシカワゲラ科、同舌類のヒロムネカワゲラ科、カワゲラ科、ミドリカワゲラ科、アミメカワゲラ科に着目して比較発生学的検討を行い、1)卵構造、2)胚形成、3)胚伸長、4)胚運動の詳細を明らかにした点である。これらの結果より、「卵表層における胚伸長様式」は多新翅類の固有派生形質と理解すべき特徴であることから、カワゲラ目の多新翅類への所属が強く示唆される。また、卵構造に基づき提出されていたキタカワゲラ亜目の「完舌類―同舌類体系」の妥当性が本研究からも支持される。さらに、本研究より明らかとなった3タイプの胚運動型に基づき、キタカワゲラ亜目内の新たな系統仮説、すなわち、胚軸不変型の胚運動がトワダカワゲラ科、シタカワゲラ科、ホソカワゲラ科の、横転型の胚運動がオオカワゲラ科とヒロムネカワゲラ科のそれぞれの共有派生形質である、を提出した。 二つ目は、トワダカワゲラ科の胚膜系の微細構造観察を行い、肥厚漿膜細胞および肥厚漿膜クチクラの詳細な形成過程を記載し、肥厚漿膜細胞は、1)羊漿膜褶形成にともない胚下に集合した漿膜に由来し、2)4層で構成される肥厚漿膜クチクラを形成、そして崩壊することを明らかにした点である。 以上二点の成果を国内学会で発表したほか、国際的な学術雑誌で公表した。 ミナミカワゲラ亜目の研究は着手できなかったが、次年度にニュージーランドでのサンプリングを実施する目途がついたので、研究を発展させたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本産キタカワゲラ亜目全9科の比較発生学的検討により、カワゲラ目が多新翅類に属することを明らかとし、キタカワゲラ亜目内の類縁関係を胚運動型に基づき議論を進展させたこと、そしてこれらの成果を国際学術雑誌に公表したことは大きな進展といえる。 また、トワダカワゲラ科の胚膜系に関連する構造である、肥厚漿膜細胞および肥厚漿膜クチクラに注目してその詳細な形成過程を明らかとし、成果を国際誌に発表したこともまた大きな進歩である。 しかしながら、ミナミカワゲラ亜目に関しては、当初の採集予定地としていたオーストラリアでの許可申請が難航したため、研究に着手できていない。 以上を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している。」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、トワダカワゲラ科で明らかとなった肥厚漿膜細胞および肥厚漿膜クチクラについて、ほかのキタカワゲラ亜目においても同様の観察を実施し、キタカワゲラ亜目におけるこれらの構造の網羅的な理解を目指す。また、トワダカワゲラ科を中心に器官形成の検討も開始する。その中でも、多新翅類においてきわめて特異な形成様式が予備実験において観察されている消化管形成に焦点を絞り、メタクリル系樹脂を用いた準超薄切片の光学顕微鏡観察、エポキシ系樹脂を用いた超薄切片の透過型電子顕微鏡観察を通して、形成過程の詳細な組織学的・微細構造学的観察を行う。 また、ミナミカワゲラ亜目については、当初予定していたオーストラリアでの採集計画を断念し、より容易な調査が可能なニュージーランドに採集地を変更することとした。幸いにも採集許可を得るに至ったので、今後は現地に渡航してミナミカワゲラ亜目の採集および固定卵の確保を行い、帰国し次第速やかに本亜目の外部形態観察に基づく卵構造および胚発生過程の観察、樹脂包埋卵の準超薄・超薄切片に基づく組織学的・微細構造学的観察を行う。 そして、各亜目の発生学的データの蓄積が行われた時点で、本研究課題の総括を行う。カワゲラ目のグラウンドプランを構築し、多新翅類における先行研究の知見との比較検討を行い、多新翅類のグラウンドプラン、系統進化学的議論を展開する。そして、本研究課題の総括、成果の公表を目指し、論文の作成を行う。
|
Research Products
(8 results)